本研究はCryタンパク質の優れた標的生物認識機構を用いた有害生物駆除法の確立を目指している。Cry46Abは土壌細菌Bacillus thuringiensis (Bt)が産生するβ型膜孔形成タンパク質毒素(βPFT)のひとつで、ボウフラのほか、スクミリンゴガイやチャコウラナメクジに食毒性を示すが、魚類やセンチュウには作用しないという生物種を跨ぐ広域選択毒性を示す。このCry46Abの標的生物認識機構を利用すれば、安全かつ環境負荷の小さい有害生物駆除法を確立できる。 Cry46Abは、標的生物に摂取されると中腸上皮細胞表面にある受容体に結合する。その後、Cry46Ab分子同士の会合により膜孔前駆体(プレポア)を形成し、細胞膜に貫入することで膜の選択透過性を撹乱し、細胞を死に至らしめる。この作用機序から、毒素の標的生物認識は受容体との結合が重要なステップと考えられる。Cry46Abは他の多くのβPFTと同様に細長い立体構造をとるが、頭部を形成するドメインⅠの表面に配置される2つの芳香族アミノ酸クラスターが受容体との結合に重要であることがこれまでの研究で明らかになっていた。そこで、2023年度は、この2つのクラスターのアミノ酸置換変異体を多数作製し、ボウフラやスクミリンゴガイに対する殺虫活性を指標に受容体との結合に関与するアミノ酸を検討した。2つのクラスターのどちらか一方のアミノ酸を置換した変異体では活性の変化はほとんど観察されなかったが、両方に置換を入れた2重変異体では活性を完全に失わせるアミノ酸の組み合わせが見つかった。このことから、Cry46Abの標的生物認識機構には2つの芳香族アミノ酸クラスターが必要であることが示唆された。この領域の受容体との結合機構の解明は、優れた選択毒性をもった生物農薬の開発につながると思われる。
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