研究課題/領域番号 |
21K05604
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研究機関 | 公益財団法人岩手生物工学研究センター |
研究代表者 |
藤崎 恒喜 公益財団法人岩手生物工学研究センター, 園芸資源研究部, 主任研究員 (30626510)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 植物RNAウイルス / Proviral factor / シロイヌナズナ / 順遺伝学的解析 |
研究実績の概要 |
本研究は、植物ーウイルス間相互作用を順遺伝学的に解析可能なハイスループットの実験系構築と新規ウイルス増殖関連因子の同定を目的としている。申請者が独自に単離し、シロイヌナズナで低温依存的に増殖するトムブスウイルス(SWBV-C1)をエストラジオール誘導プロモーターの制御下で発現させる形質転換体シロイヌナズナを用い、エストラジオール処理と温度シフトを組みわせることで、簡便かつ高精度にウイルス感染の発動/制御を可能とした。本系を用いて、病徴を指標にハイスループットのEMS変異体スクリーニングを行った。現在までに約5万系統の変異株スクリーニングを行い、150系統の候補変異株を得た。それらについて、SWBV-C1を接種し、実際にウイルス感染・発病が抑制される変異株として36系統を選抜した。そのうち12系統は非常に強いウイルス耐性を示している。先行実験として3系統について遺伝学的解析を進め、そのうち1系統から原因遺伝子候補としてeIF4Gを同定した。本変異株ではSWBV増殖が非常に強く抑制され、他の複数のシロイヌナズナのeIF4G変異体の解析から、eIF4Gの機能破壊が原因であると考えられた。これらの結果から、本実験系の有用性が確認されたため、他の候補変異株についても原因遺伝子同定に向けた遺伝学的解析を進めている。 また、本実験系をウイルスに対する宿主抵抗性機構の解析に適用することも目指し、まず、ウイルスの感染・発病効率が促進される、これまでとは逆の形質に焦点を当てたスクリーニングを開始した。さらに、レポーターアッセイによる宿主の防御応答の検出を目指し、本システムにおいても誘導される複数の防御応答遺伝子を同定した。このほか、活性酸素種(ROS)による本実験系での宿主防御応答の検出を試みているが、現在のところ成功しておらず、これについては今後、条件検討を進める予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り、数万系統以上の大規模スクリーニングを実施し、複数の変異株候補を得た。施設と労力の制約により、10万系統以上のスクリーニングには至っていないが、今後も継続する予定である。昨年度は並行して原因遺伝子同定を目指した遺伝学的解析を実施し、シロイヌナズナを用いたモデル実験系の利点を生かし、変異株の単離から1年以内の短期間で原因遺伝子を同定した。その後の解析で、原因遺伝子として同定されたeIF4Gはその機能破壊によりSWBV-C1の増殖を強く抑制することが確認された。この結果はSWBVの増殖制御因子の同定としては新規なものである。一方、eIF4Gはキュウリモザイクウイルスやポティウイルスの増殖制御に関与することが報告されており、ウイルス増殖制御因子としては新規性の高いものではない。今後、スクリーニングの継続と他の変異株の解析、さらには新しいスクリーニング法の導入により、新規のウイルス増殖制御因子の同定を目指す必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
1)病徴を指標にしたウイルス増殖・発病を抑制する変異株のスクリーニングの継続と順遺伝学的解析による原因遺伝子(Proviral factor)の同定。 2)病徴を指標にしたウイルス増殖・発病を促進する変異株のスクリーニングの推進と順遺伝学的解析による原因遺伝子(Antiviral factor)の同定。 3)本実験系における植物防御応答の検出実験系の確立(レポーター遺伝子の利用やROSの検出)。
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次年度使用額が生じた理由 |
次世代シークエンシング解析用の試薬の一部が購入できなかったため。
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