研究実績の概要 |
アブラムシは、体内の菌細胞とよばれる共生器官で、共生細菌ブフネラとの絶対共生を成立させており、そこには機能不明の菌細胞特異的システインリッチペプチド(BCR)が存在する。本研究は、RNAiによるBCR遺伝子の発現抑制を試み、「アブラムシのBCRはブフネラとの共生に必須であるか?」という問いに答えることを目的とする。エンドウヒゲナガアブラムシApL系統を研究材料とし、それぞれのBCR遺伝子を標的とする合成RNAを人工飼料に添加して給餌し、BCR遺伝子の発現、給餌後の生存率と繁殖率を検討した。 これまでの研究で、アブラムシ体内のRNaseの活性により、給餌したRNAが分解され、発現抑制の効果にばらつきがあることが考えられた。そこで、令和3年度は、RNaseに耐性があるとされる修飾RNA(LNA, Linked Nucleic Acid)を合成して使用した。しかし、いずれのBCR遺伝子を標的としたLNAを給餌しても、標的遺伝子の発現抑制や生存率の低下は観察できなかった。このことから、LNAによるRNAiの効果は期待できないと判断した。一方、アブラムシ1個体ごとの標的遺伝子の発現については、プロトコルの再検討などにより、解析の精度をあげることができた。 令和4年度は、ApL系統の7種の全てのBCR遺伝子(BCR1-6, BCR8)について、令和3年度に確立した実験系と評価方法で検討した。これまで未検討であったBCR5, 6, 8のいずれのBCR遺伝子についても、合成RNAの給餌により標的遺伝子の発現が抑制され、生存率も有意に低下することが判明した。また、抗菌活性の弱かったBCR2, 4についても、混合給餌によって両遺伝子の発現を同時に抑制すると、生存率が低下することが判明した。これらのことから、全てのBCRが、アブラムシとブフネラとの共生に必須であろうと考えられた。
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