研究実績の概要 |
アブラムシは、体内の菌細胞とよばれる共生器官で、共生細菌ブフネラとの絶対共生を成立させており、そこには機能不明の菌細胞特異的システインリッチペプチド(BCR)が存在する。本研究は、RNAiによるBCR遺伝子の発現抑制を試み、「アブラムシのBCRはブフネラとの共生に必須であるか?」という問いに答えることを目的とする。これまでに、エンドウヒゲナガアブラムシApL系統のBCR遺伝子の発現を合成siRNAを給餌することにより抑制すると、生存率が低下することを把握していたが、最終年度は、より詳細に検討した。 標的としたBCR遺伝子の発現は、siRNA給餌48時間後までに6割以下に低下したが、72時間後には、ほぼ通常レベルにまで回復していた。このことは、72時間後に生存していた個体は、siRNAの効果が弱かったためと推測される。 BCR3遺伝子の発現が抑制された個体では、ブフネラのDnaK遺伝子の発現量が2倍程度に上昇した。このことは、BCR3ペプチドによる制御が低下したために、ブフネラが過剰に増殖して共生が破綻し、その結果、生存率が低下したと考えられる。BCR1, BCR2, BCR4のそれぞれの遺伝子の発現を抑制してもDnaK遺伝子の発現に大きな変化は現れなかった。抗菌活性を有するBCR3、及び、抗菌活性が弱いBCR2と4、いずれの遺伝子発現を抑制しても生存率が低下したことから、これらのBCRペプチドは、共生の成立で異なる機能を有しているものと考えられる。BCR1, BCR3, BCR5, BCR8のそれぞれの遺伝子の発現を抑制して光学顕微鏡にてバクテリオサイトを観察したが、明らかな変化は認められなかった。 これらの結果から、BCRはブフネラとの共生に必須であると考えられるが、その機能については、さらなる研究が必要である。
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