研究課題/領域番号 |
21K05621
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研究機関 | 東北学院大学 |
研究代表者 |
土原 和子 東北学院大学, 教養学部, 准教授 (10300823)
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研究分担者 |
飯塚 哲也 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 生物機能利用研究部門, グループ長補佐 (80414879)
高梨 琢磨 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 主任研究員 等 (60399376)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 機械受容 / 聴覚 / 感覚毛 / カイコ / トランスジェニック |
研究実績の概要 |
2021年度は、まず研究目的に合致したカイコの系統を検索し決定した。機械刺激に対する反応性の高いカイコもしくは、低いカイコなどの探索をおこなったが、特に差がなかった。そこで、今後のことを考え、遺伝子操作がすでにおこなわれている系統を今後使用することとした。そして決定した系統を用いて以下の2つの実験をおこなった。 1)カイコの胸部・腹部の音受容感覚子の分布の確認(胸部に4対、腹部に8対、計12 対)および周波数特性を確認した。音の周波数特性について、行動可能領域は、周波数(Hz)および音圧(音量,dB)の感度を行動実験により調べた。また、感覚子の切除実験をおこない、感覚子の場所と数における行動との関連を調べた。機械受容には、音、気流、振動などが含まれるため、振動についても、周波数特性や感度に対する行動実験を振動発生装置を用いておこなった。具体的な結果として、12対の機械感覚毛について、音および振動を4齢及び5齢のカイコに提示し、行動を示す周波数特性を確認することができた。また、感覚毛を1対ずつ切除して行動の変化を確認した。なお、感覚毛の切除は、採餌や成長(脱皮、変態)に影響がないことを確認した後におこなった。これにより、音と振動の受容する感覚毛の役割分担はないことも確認できた。 2)音などを受容する機械受容器は機械感覚子の細胞に含まれる。そこでその細胞を採取するための方法を模索した。感覚子を細胞ごと採取する方法と、採取する時期を検討し、RNAの単離をおこなった。ただし、量の問題があり、かなりの数を採取しなければならないため、別の方法も検討する必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
カイコの聴覚をモデルとして、チョウ目の幼虫にみられる新たに発見した感覚子型の「聴覚器」の特性を、分子から行動にわたって解明することを目的に研究を遂行した。本研究では、これまでの研究結果(感覚子が捕食者の音を検知する)を活かして、チョウ目幼虫のカイコにおける音受容体の同定および機能解明を目指している。チョウ目幼虫のカイコにおける音受容体の同定および機能解明を目指すにあたり、3年間で以下の3つの項目を計画した。1) 感覚子(音受容器)が受容する周波数の特定、2) 感覚子における音受容体遺伝子の同定、3) その遺伝子の機能解析(ノックアウトカイコの作成による行動実験)、を行うことにより、音受容体の分子的同定と機能を解明する。 その中で1年目の2021年度の研究実施計画としてあげた以下の2項目について記す。 ①予備実験により、カイコの胸部・腹部の音受容感覚子の分布を確認したところ、胸部に4対、腹部に8対、計12 対の音受容性の感覚子が存在した。そこで、まず研究目的に合致したカイコの系統を検索した。そして、実験に適した系統について、音の周波数特性の感度を行動実験により調べた。また、感覚子の切除実験をおこない、感覚子の場所と数における行動との関連を調べた。並行して、振動についても、周波数特性や感度に対する行動実験をおこなった。その際は、音の実験と同じ系を用いるが、スピーカーの代わりに、振動発生装置を用いて行動実験をおこなった。音と同様に周波数特定の感度を行動実験により調べた。そして、②実際の機械感覚子の細胞を採取するための、カイコの機械感覚細胞を単離する方法を模索し、細胞を一定数、単離することができた。 5に既述したように、計画に対して、一定の結果がでており、2年目の研究につなげられる。以上により、おおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
2年目の2022年度は、2021年度に行動実験に用いたカイコの系統(遺伝子操作がすでに行われている系統)において、音受容性の機械感覚子を細胞体ごと大量に集め(500個体分を予定)、音受容性ではない機械感覚子も同等数集め、遺伝子の同定を試みる。2年目はRNAseqを予定しており、RNAseqをおこなうにあたってRNAの抽出法を模索する。ここでは、発現遺伝子を網羅的に調べ、聴覚受容体遺伝子を特定する。その他、候補遺伝子の配列については、データベースでこれまでに同定されているものを探索し、RT-PCRをおこない、発現時期や発現場所を確認する。 その他、脊椎・無脊椎動物の聴覚受容体の配列と相同性等を確認する。特にショウジョウバエにおいては、音受容にかかわる遺伝子や、熱に対する反応を示す遺伝子が同定されており、これらはカイコにおいて候補遺伝子となる。それらの既知の遺伝子配列と相同性がある場合は、こちらの遺伝子をノックアウトし、音もしくは振動受容に対する行動の有無を確認する。 3年目の2023年度は、2022年度に遺伝子が同定できた場合は、以下の2つの実験を行う予定である。1つ目はRNAseqで特定した遺伝子の発現場所や発現時期などの遺伝子解析をおこなう予定である。また、その遺伝子をノックアウトしたカイコを作成する。作成したノックアウトカイコに対して、音や振動を提示して、行動の有無を確認する。機能の消失が確認できた場合は、また遺伝子を戻したレスキューのカイコを作成する。そして、音や振動を提示する行動実験により、音受容に対する行動が消失すること、そして、レスキューした個体については、機能が回復するかを確認する。以上により、カイコにおける機械感覚子による聴覚の分子機構を解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究費に関しては、使用されていない部分があるが、コロナ禍により消耗品が予定通り調達できなかったものがある。調達できなかった物品に関しては、2022年度に必要物品を購入予定である。2021年度は主に行動実験をおこなったため、今後の試薬等は2022年度以降の購入で十分間に合うと考えられる。ただし、輸入品や、発注依頼をかけてから作成する物品等に関しては、部品不足や購入できないことも考えられる。政界情勢を鑑み、2022年度以降も同じような状況が起こる場合もありうるため、予定物品の調達は早めにおこない、購入不可の物品に関しては代替品の購入など、早めの対処を行う予定である。
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