研究課題/領域番号 |
21K05628
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研究機関 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
田端 純 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 植物防疫研究部門, 上級研究員 (20391211)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | フェロモン / モノテルペン / 遺伝 / 跳躍的分化 |
研究実績の概要 |
移動力が低いコナカイガラムシ類にとって、性フェロモンは異性と効率的に巡り合うために必要不可欠なツールである。その化学構造は種毎に固有で、生殖隔離機構としても重要な役割を担っており、近縁種間でも炭素骨格が大きく異なる跳躍的な分化がみられる。例えば、ミカンコナカイガラムシPlanococcus citriのフェロモン(2,2-dimethyl-3-isopropenylcyclobutyl)methyl acetateは特徴的なシクロブタン環を含むが、その近縁種のP.minorのフェロモンはラバンデュロールに似た非環式モノテルペン2-isopropyl-5-methyl-2,4-hexadienyl acetateである。このようなフェロモン構造の極端な違いを生み出す遺伝的背景を明らかにすることができれば、昆虫のフェロモンによる生殖隔離を伴う種分化のメカニズムの解明につながる。 そこで、この2種のコナカイガラムシを材料として交雑実験を実施し、交雑体のフェロモンを分析したところ、F1世代のメス成虫はすべて両親のフェロモン2成分を同時に放出することが分かった。さらに、F1と両親の種の戻し交雑から得たメスには、F1と同様に2成分のフェロモンを生産する個体と戻し交雑した親のフェロモン1成分のみを生産する個体が概ね1:1の比率で現れた。これらの結果は、2種のフェロモン構造の違いをもたらすひとつの主要遺伝子の存在を示唆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ミカンコナカイガラムシとその近縁種の交雑実験に予定通り成功し、交雑体を得て、多検体のフェロモン分析を実施することができた。また、累代飼育系統を維持して交雑実験を繰り返し、結果の再現性も確認したことから、次年度以降の生化学・分子生物学的解析を推進するための実験基盤を確立できたため。
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今後の研究の推進方策 |
ミカンコナカイガラムシやその近縁種、2種の交雑体のメス成虫のフェロモンを分析するとともに、それらの個体のRNAを抽出し、トランスクリプトーム解析を実施する。これにより、フェロモン構造の違いに関わる主要遺伝子の候補をスクリーニングする。また、候補遺伝子の機能解析を実施して、フェロモンの跳躍的分化を生み出す遺伝的背景を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) フェロモンおよびフェロモン前駆体の有機合成の効率化に成功し、使用予定の試薬や実験助手の雇用のために計上した経費を節約することができたため。また、感染症蔓延防止のために現地調査を自粛し、旅費を使用しなかったため。 (使用計画) 次年度以降に実施する生化学・分子生物学実験を推進するための物品費として使用する。これにより、計画よりも多検体のサンプルを解析することができ、より詳細で高精度な結果が得られるものと期待できる。
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