本研究では現在、我が国周辺では沖縄近海のみに生息が確認されているジュゴンを対象とし、県内に点在する遺跡から出土する古代の骨試料、並びに県下の博物館・資料館に保管されている近現代の骨標本も研究対象として遺伝情報を獲得し、本種の歴史的にみた遺伝的変遷の解析を進めることを目的とする。令和5年度は前年度までに入手していた遺跡ジュゴンのDNAに加え、新規のジュゴン遺跡骨を対象として実験を進めた。入手済みの古代DNA試料においては、ショットガン・シークエンスでは対象とするミトコンドリアDNAの情報量が絶対的に不足していたことが判明していたため、arbor biosciences社で開発されたmyBaits Mitoキットを用い、ミトコンドリアDNA濃縮作業を行なった試料を使用して次世代シークエンサー(NGS)による分析を試みた。しかし濃縮効率が上がらず、結果として分析を進めるだけのデータが得られなかった。この理由としては、濃縮前の古代DNAの残量が予測していた以上に分解していたことが一つの可能性として考えられたため、新規の遺跡出土骨の入手を試み、年度末にようやくDNA抽出のための資料にアクセスすることができたため、現在新たにDNA抽出ならびにDN Aの濃縮を進めている。一方で、リファレンスデータに用いるジュゴン全ゲノムに関しては、Le Duc et al.(2022)により新規ゲノムの配列が公表されていたため、マクロジェン・ジャパン社に受託解析を依頼し現生ジュゴンのゲノム配列を入手できたため、遺跡出土骨由来のDNA分析に応用し、解析を進めている。
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