研究課題/領域番号 |
21K05638
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
三宅 裕志 北里大学, 海洋生命科学部, 教授 (00373465)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 幼生分散 / 熱水音 / 繁殖 |
研究実績の概要 |
浅海から300m程度の熱水噴出域に生息するタイワンホウキガニは、熱水性甲殻類がどのように幼生分散し、メタ個体群を形成し、それを維持するかを理解するモデル生物である。本研究では、タイワンホウキガニがどのようにして、熱水域に加入するのかを、熱水環境音に注目して明らかにすることを目的とした。 2020年の大規模な噴火後の西之島にて、ホウキガニの出現の有無について調べた。調査は、火口からの距離1.5kmまでの警戒範囲外の西之島北側の海域でSCUBAを用いて行ったが、熱水域に近づくことが出来ず、ホウキガニ類は確認できなかった。また、プランクトンネットを鉛直曳きおよび傾斜曳きし、ホウキガニの幼生の採集を試みたが、幼生は確認できなかった。さらに、ホウキガニの生息の有無を調べるために、環境DNAによる調査も行ったが、陽性反応は得られなかった。 式根島御釜湾にて、SCUBAでCompact CTDおよび多項目水質計を用いて、潜水ルートの水深、水温、塩分、溶存酸素、pHを測定した。また、直接熱水噴出孔からシリンジで熱水を採水し、pH、塩分、硫化物濃度を測定した。さらに、生息地の熱水音を水中マイク(AUSMOS-mini)を用いて記録した。 室内実験では、Y字水槽を作製し、硫化物、温水、熱水噴出域の音の刺激にどのような反応を示すかの実験を行った。また、水槽内で採集したホウキガニから幼生を得て、幼生の行動や成長を観察した。 また、過去に得られたDNA解析データも含めて、亀山島、式根島、大室だし、昭和硫黄島の個体群を用いた集団遺伝解析をおこない、4つの集団はいずれも2つの主要なハプロタイプを共有し、約1,000 km離れた昭和硫黄島と大室だしの間には、統計的に有意な集団分化が認められた。これらの成果はプランクトンベントス学会で報告し、さらに論文として投稿した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
集団遺伝解析による式根島、大室だし、昭和硫黄島と台湾の亀山島の個体群の繋がりを明らかにすることができ、論文として報告できた。しかし、まだサンプル数に不十分な点があり、さらには小笠原海域のホウキガニ個体群のデータが全く無かったため、黒潮反流による幼生分散を詳しく見る事が出来ていない。タイワンホウキガニは水深200ー300mの熱水域にも生息する。火山噴火においても、海進海退などの歴史的なイベントでも、浅海域の生息場所は深海域よりも不安定であり、浅海域の個体群は絶滅と新規加入が繰り返されていると思われ、浅海域と深海域の個体群の繋がりを考慮する必要があった。 西之島調査では、ニシノシマホウキガニの遺伝子情報はないため、ニシノシマホウキガニのシノニムである可能性の高い、タイワンホウキガニの遺伝子情報を用いて、プライマーを作製した。しかし、環境DNAサンプルでの陽性反応は得られていない。今回の調査では、熱水のでている地域が、制限区域内に入っていたため、その環境水が得られなかったのが原因かと思われる。また、一方でニシノシマホウキガニがまだ定着していない可能性もある。 飼育実験においては、繁殖による幼生の確保は確実に出来るようになったが、生残率が悪く、1週間程度で全滅し、成長による形態変化を見る事が出来ない上に、孵化後数日の間でのみしか行動実験に用いることが出来ない状態であり、飼育方法を改良する必要がある。 水中スピーカーに関して、水中では振動としての伝播となるため、実験において水槽の壁面や底面の振動をどう考慮するかあるいはどのようになくすかが課題となった。さらに、水中スピーカーを用いた幼生トラップの作製において、市販の水中スピーカーを用いると電源確保やハウジングの大きさに問題が出る可能性が出てきた。
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今後の研究の推進方策 |
水中スピーカを用いた幼生トラップについては、モバイルバッテリーを用いたバッテリー、小型アンプ、プレーヤーをいれたハウジングと振動スピーカーをレジンにうめたスピーカにして小型化を目指す。 飼育実験においては、飼育水槽の改良、植物プランクトンなどの餌料生物の培養、日長などによる脱皮ホルモンの分泌促進などから、第2ゾエア以降への成長を促進する。また、8月から11月には新規加入する幼生が現場において採集できる可能性がある。得られたサンプルから、同位体、胃内容物の解析から食性も調べ、飼育に役立てる。さらにはメガロパの採集を行い、メガロパを用いて熱水噴出域の刺激への反応を観察する。 飼育によって各段階の幼生が得られれば、幼生の形態と感覚毛と神経の分布を調べ、行動の変化との関連を調べてゆく。 環境DNAに関しては、プライマーの設計がうまくいっていない可能性がある。今年度採集されたタイワンホウキガニの飼育水などを用いて、種特異的なプライマーの開発を行い、個体数も定量出来るデータを取得し、日本各地の海底温泉での環境水から環境DNA解析が出来るようにする。 本年度の結果より、小笠原域の個体群、深海域との個体群の繋がりを考慮する必要がでてきたため、今後これらの個体群が得られるよう深海研究船の公募に積極的に応募し、また大学の練習船による採集も行ってゆく。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、6月か7月に式根島調査に行く予定であったが、7月に西之島調査が出来ることとなり、式根島調査1回分が次年度使用額に生じた。 次年度には式根島調査あるいは昭和硫黄島調査に用いる予定である。
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