研究課題/領域番号 |
21K05639
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研究機関 | 岡山理科大学 |
研究代表者 |
宇根 ユミ 岡山理科大学, 獣医学部, 教授 (40160303)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 真菌 / 新興感染症 / ヘビ / 生態系の保全 / Ophidiomycosis / snake fungal disease |
研究実績の概要 |
第3の新興病原体とされるOphidiomyces ophiodiicolaは欧米の野生下および飼育下ヘビに感染し、流行病Ophidiomycosisを引き起こし、ヘビ類の種の保全の脅威となっている。国内では、2021年飼育下ヘビの致死的皮膚病から発見され、アジア初の事例となった。そのため、本種の在来種への影響を評価し、種の保存に資するために調査・研究を行った。2021年度は飼育下ヘビにおける流行状況の把握と在来種への感染実験を行った。流行調査としてペット用動物および保護動物4科11属14種、延べ41匹を対象として病理学的および微生物学的に検索した。その結果、18検体に真菌感染を確認し、O. ophiodiicola、本種に近縁のNanniziopsis guarroiなど複数種の真菌を分離した。同一施設内での流行と判断できる事例もあった。また、同じく検索対象とした天然記念物岩国のシロヘビ15匹のうち、9匹に顕著な皮膚病変が観察され、7匹に真菌感染が認められた。そして、現時点では本疾患・本種の特徴的組織像およびコロニー性状を示す個体は確認できていない。本疾患に関する情報収集と注意喚起のために学術集会および雑誌に公表した。 本種の在来種への病原性を評価するために、アオダイショウとシマヘビ各3匹、ジムグリ1匹、計7匹に既報の感染方法を従って本種を頭部(皮膚、眼、鼻、口)に接種して、9ヵ月観察したが、発症する個体はなかった。以上、飼育下ペット用動物および保護動物において複数種の真菌感染が散発あるいは流行していることが明らかになり、一部で本疾患が発生していることを確認した。なお、シロヘビ皮膚病症例および在来種を用いた感染実験において、現時点で在来種への感染性および病原性は確認できていないが、本真菌は非常に広い宿主域を持っていることが知られており、今後も調査、研究を継続する必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
おおむね順調に進展している。その理由 飼育下動物におけるOphidiomycosisの発生状況の調査を実施して、2019年アジアで初めて確認されて以降、ペット用動物に、2例目となるOphidiomyces ophiodiicolaの感染を確認したこと。これは、現在でも、本種がペット用動物の流通を介して、国内に侵入し、拡散する可能性があることを示す事象として捉えられる。また、今後予定しているOphidiomyces ophiodiicola特異的検出方法確立に際して、有効な試料となるOphidiomyces ophiodiicolaの近縁真菌Nanniziopsisなど数種の真菌の分離に成功した。 そして、本研究の成果を学術集会や学術雑誌に公表できたこと。 岩国市教育委員会(文化財保護課)の全面的協力が得られて天然記念物岩国のシロヘビを研究対象とすることができたこと、そして、現時点で、シロヘビにO. ophiodiicolaの感染がみられないことを教育委員会に報告できたこと。さらに他分野の専門家の賛同を得て、シロヘビの保全に関わる任意の研究会を発足して、継続して研究が進められるようにでき、真菌症のみならず、総合的にシロヘビの保全に関わる活動が継続できるようになったこと。 爬虫類研究者の協力を得て病原性評価のための実験動物が早期に入手でき、1年目から在来種の感染実験が実施できたこと。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究方針に変更はないが、2021年度研究成果に基づいて、いくつかの新規実験を実施することとした。1)ペット用ヘビ(流通過程)を対象として、発症個体の病理学的および真菌学的検索、2)岩国シロヘビ死亡個体の病性鑑定、皮膚真菌症の発生状況把握、真菌学的検索および発生機序の解明、3)Ophidiomyces ophiodiicola特異的検出法の確立、4)新規方法による各種ヘビへのO. ophiodiicola 感染性の評価 可能な限り多くのヘビの脱皮皮および皮膚(死亡個体から採取)より皮膚パッチ(感染用組織片)を作成し、これに樹立した各種皮膚真菌を接種して、感染性、増殖程度を評価する。この方法が確立できれば、3Rが実践できる。すなわち生きたヘビを用いることなく本菌の感染性の有無が評価でき、感染性が確認できたヘビ種を用いて、病変形成機序を解析できる。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額がある理由として、コロナ禍で、出張(研究発表、打ち合わせおよび調査)が全くできなかったこと。予定していた研究支援者を雇用できなかったことなどが挙げられる。本年度は新型コロナワクチン接種による抗体獲得および移動制限も撤廃され、予定通り出張でき、研究支援者の雇用も可能である。また、新規事業の計画もあることから、年度内に予算執行を終える予定である。
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