研究課題/領域番号 |
21K05639
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研究機関 | 岡山理科大学 |
研究代表者 |
宇根 ユミ 岡山理科大学, 獣医学部, 教授 (40160303)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 真菌 / 新興感染症 / ヘビ / 生態系の保全 / Ophidiomycosis / snake / fungal disease |
研究実績の概要 |
申請者はヘビ類の種の保全の脅威となる第3の新興病原体Ophidiomyces ophiodiicola(以下Oo)をアジア初の事例として2019年病死ヘビから分離同定、公表した。本研究はOoの在来種への影響を評価し、ヘビ類の種の保存に資することを目的とした。2022年度は飼育下ヘビ28匹を検索し真菌症13匹と新たにXenopeltis unicolorなどヘビ3種からOoを分離した。過去分離株とともに、培養形態観察と遺伝子解析を実施して、Oo、Nanniziopsis guarroi(アジアでの確認は2報目)、Parananniziopsis属真菌およびシロヘビからはAlternaria属などの色素産生真菌を同定した。OoとN. guarroiは宿主域も、病原性も異なること、Parananniziopsisは天然記念物シロヘビにのみ確認され、既報の真菌に一致しない株があり、その病原性も明らかでない。よって、これらを識別する検査法を確立するため、各真菌の遺伝子解析を実施して、識別のための特定部位を特定し、現在、プライマー設定を検討している。さらに、これらの真菌の病原性や特性を明らかにするために、分離菌株65株の培養抽出物の二次代謝産物の生産性を、超高速液体クロマトグラフを用いて解析して、Parananniziopsisの培養抽出物中にはDPN検索で該当しない複数の物質があることを確認した。また、生物活性評価を実施し、一部に細胞増殖阻害活性があった。新たに在来種ヒバカリを用いて感染実験を実施したが発症しなかった。以上、飼育下ヘビにおける皮膚真菌症の病態を把握し、複数の原因真菌を特定した。現時点でOoの在来種への感染性および病原性は確認できていないが、すでに、国内で、流通過程にある複数種のヘビに感染が広がっていることから、早急に検査法の確立および対策について検討する必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
おおむね順調に進展している。その理由として、小動物臨床分野の協力者の支援、および、天然記念物指定のヘビを管理している自治体の依頼を受けて皮膚真菌症の症例の収集が的確かつ容易にできるようになり、異なる種類のヘビからOphidiomyces ophiodiicolaの分離同定および鑑別すべき近縁の真菌の分離に成功し、遺伝子解析が進んだこと、 このことから、1.さらに国内におけるOphidiomycosisの発生状況が把握できるようになった。2.遺伝子検査法の確立に目途が立った。O. ophiodiicolaは、以前はChrysosporium anamorph of Nannizziopsis vriesii (CANV) complexといわれた真菌として扱われていたが、同じグループの他の真菌と宿主域および病原性が異なり、本真菌はヘビの保全に多大な悪影響を及ぼすことから、鑑別が必要である。しかしながら、近縁がゆえに遺伝子による菌種同定が困難であったが、複数の菌種株を樹立したことから、鑑別に有用な遺伝子部分が特定できた。3.CANVを構成する各種真菌の病原性の評価ができるようになった。4.天然記念物ヘビの保全への貢献 2022年度研究によって、今まで報告がなかったParanannizziopsis属真菌が天然記念物ヘビからのみ検出されたことから、Paranannizziopsis属真菌の生物学的特性や病原性を明らかにすることで、本ヘビ種に特化した対策が立てやすくなったこと。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究方針に大幅な変更はない。2021年度、2022年度の研究成果に基づいて、いくつかの新規実験を含めて実験を行うこととした。1)流通過程にあるペット用ヘビにおける皮膚真菌症の発生状況の把握と対策(診断法の施行と、予防法および治療法の検討)2)天然記念物ヘビにおける保全に関する対策の検討 皮膚真菌症発生個体への対応(治療および拡散防止)、皮膚真菌症発生予防法の対策 3)O. ophiodiicolaの感染性の評価(ヘビ皮チップを用いた実験)在来種および外来種の脱皮皮および皮膚を入手してヘビ皮チップを作成して殺菌条件の検討が終了しており、新たに株化できた真菌を含めて感染実験を行う。4)確立した検査法を用いて臨床個体および野生個体における真菌の浸淫調査を行う 5)真菌二次代謝産物の解析を続け、O. ophiodiicolaの病原因子を特定する 6)学術集会および雑誌に発表し、情報を発信する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用費用がある理由として、新型コロナウイルス感染流行により国及び自治体からの指針に従って行動制限をしていたため、研究打ち合わせおよび学術集会出張や研究補助要員の採用ができなかった。しかしながら、2023年5月より5類感染症に指定されたことから、2023年度は予定通り、支出できる。また、新規事業の予定もあることから年度内に予算執行を終える予定である。
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