研究課題/領域番号 |
21K05640
|
研究機関 | 和歌山工業高等専門学校 |
研究代表者 |
楠部 真崇 和歌山工業高等専門学校, 生物応用化学科, 准教授 (40403761)
|
研究分担者 |
林 和幸 和歌山工業高等専門学校, 環境都市工学科, 准教授 (30587853)
横田 恭平 和歌山工業高等専門学校, 環境都市工学科, 准教授 (60632734)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | バイオセメント / バイオセメントFe / アマモ場 / 硫酸還元菌 / 硫黄酸化細菌 |
研究実績の概要 |
(1)バイオセメント架橋物質によるアマモへの影響:炭酸カルシウムおよび炭酸鉄によるバイオセメントを用い、アマモ発芽および生長を観察したところ、炭酸鉄による生長が顕著であった。また、裸地およびアマモ場底質を用いた同様の試験では、発芽率に有意差は確認できなかったが、その後の生長速度や葉緑体濃度に差を認めた。これは、アマモ個体への鉄イオン供給源として炭酸鉄固化したバイオセメントFeが有効であることを意味している。炭酸鉄バイオセメントはカルシウムのそれと比較して脆く、カルシウムと鉄とのハイブリッドセメンテーションに可能性を見出している。(2)アマモ場底質中の細菌叢の相違:裸地とアマモ場底質の溶存酸素濃度および電位差測定より、アマモ場底質の方が還元的な数値を示した。この結果はこれまで報告されている結果と整合性がとれているが、大変興味深いことに、大型のアマモ場と小規模のそれにおける硫酸還元菌の組成には顕著な差がみられなかったが、硫黄酸化細菌の組成が大きく異なることがわかった。アマモの発芽には還元底質が不可欠であるが、硫酸還元菌が生成する硫化水素はアマモ個体に対して毒性をしめす。大型のアマモ場では、硫化水素濃度閾値を超過する前に硫黄細菌による硫化水素の酸化解毒が起こり、適切なアマモ場環境が維持されていることがわかった。この2種類の海洋性細菌のバランスが健全なアマモ場底質環境維持に重要であることを示唆している。(3)多層化バイオセメントの試作:中心部に硫酸還元菌と硫黄細菌を配合した海砂、外側に炭酸カルシウム+鉄により崩壊速度を調整および生長促進させる機能を付加した海砂を固化する設計とした。現在、水槽および実海域中にて発芽および生長試験を実施している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)炭酸カルシウムと炭酸鉄固化したバイオセメントによる発芽率およびアマモの成長速度を確認した。成長率には顕著な影響が見られなかったが、鉄を含むバイオセメントはアマモの生長に正の相関を示した。 (2)規模の異なるアマモ場底質に含まれる細菌叢解析および化学成分分析を実施した。両アマモ場には一定割合の硫酸還元菌が存在していたが、加えて大規模の場合には硫黄細菌が多く存在していた。これは、嫌気性を保つための代謝物として硫酸還元菌が発生する硫化水素を酸化する機能がある。化学分析結果からも大規模の底質には硫化水素濃度が低くなっていることを確認した。 (3)硫酸還元菌と硫黄細菌を含む海砂とカルシウムと鉄による固化を行った多層化バイオセメント造粒が完了し、実海域に散布を完了した。すでに、発芽と生長を確認しており、生長記録を開始している。5月28日にアマモ種子の採取を実施し、追熟後の夏以降で硫酸還元菌および硫黄酸化細菌のバランスや有機物の濃度など適切な組成を水槽試験する予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
(1)アマモ場底質中で生じている細菌群中の代謝ネットワークマップを作成し、適切なアマモ場のためのイオンバランスや細菌組成を見出すことを目的としている。これらは、水槽試験と実海域試験で実施するとともに、既存のアマモ場底質の測定結果との比較により結論づける。最終的に、極力人間の手が入らないような持続可能なアマモ場の造成試験を目指す。 (2)水槽試験および横浜、大阪、和歌山、熊本のアマモ場底質の硫化水素イオン、硝酸イオン、溶存酸素濃度、電位差、有機物含量を測定するとともに、各底質のメタ16sゲノム解析を実施した。これらの結果を総合的に解釈するため、主成分分析を開始しており、健全なアマモ場を維持するために含めておくべきマテリアルの検討を始めている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
概ね計画通りに執行できており、最終年度の実験物品費用が残額として残っている。
|