研究実績の概要 |
本研究では近世から現代までを対象に、3つの方法を用いて茅葺の建物が何を表象していたのか、その変遷を明らかにすることを目的とする。 初年度は茅葺の建物があたりまえだったと考えられる近世において名所図会と浮世絵にどのように描かれているかを把握する。初年度は、近世の名所図会を対象に茅葺の建物が風景の構成要素として描かれているのかを把握した。17C.から19C.までの日本風俗名所図会(鈴木棠三編(1983-1938)『日本名所風俗図会』,角川書店)に掲載されている風景を描いた図会を対象とした。それぞれの絵については描かれかた(近景、鳥瞰)と茅葺建物の有無、茅葺建物については数、屋根形態、用途などを把握した。対象とした36の名所図会には1,935枚の絵が描かれていた。このうち茅葺が描かれているのは1,185枚(61%)だった。建物29,295棟のうち、茅葺は17,188(59%)だった。屋根は入母屋が約半数で最も多く、寄棟18%、切妻は2%だった。用途がわかる2,650棟のうち、社寺が82%、店舗が15%のほか住居、工房があった。街道が描かれることが多いため店舗は平入りで入母屋が多く、住居は遠景に集落として描かれたものが多い。社寺が多いのは名所が描かれているためであると考えられる。その他に門、仮設の小屋などがあった。 茅葺の建物が多く描かれている一方、絵に付された説明に茅葺に直接関係する記述はほとんどなかった。近世のあらゆる職業を図解した『人倫訓蒙図彙』には「萱葺師」が伏見にいたことが記されている一方、民家は「草葺」とある。図会における茅葺建物は絵の主対象としてではなく、背景などの景観の要素のひとつとして扱われていること多く、茅葺の建物がありふれたものであったことが数値から明らかになった。
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