研究課題/領域番号 |
21K05653
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
渡辺 貴史 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(環境), 教授 (50435468)
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研究分担者 |
馬越 孝道 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(環境), 教授 (30232888)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 温泉熱 / 温泉地 / 多角的活用 / 運営スキーム / 適性評価 |
研究実績の概要 |
目的Ⅰの温泉熱の多角的な活用の実現と持続的な運営スキームの解明に関して,まずは, 温泉熱の代表的な活用手法である発電事業の概要を把握するために,前年度に引き続き地熱発電施設の現状を整理している報告書,資源エネルギー庁が公開する固定価格買取制度の事業認定リスト,そして立地特性に関わる各種データから明らかにした。具体的な成果は,以下の通りである。(1)地熱発電施設の分布は,高温の地熱資源が存在する北海道,東北,九州地方に偏在していた。(2)中規模以上の地熱発電施設は,1965-2004年に運転が始められた電力会社と発電会社が運営する発電形式がシングル・ダブルフラッシュ形式が多い。小規模の地熱発電施設は,2005年以降に運転が始められた再エネ会社が運営する発電形式がバイナリー形式が多い。(3)中規模以上の地熱発電施設は,人口集中地区から離れており人口と宿泊施設が少ない場所に立地していることが多い。それに対して小規模の地熱発電施設は,人口集中地区に比較的近く人口と宿泊施設が比較的多い場所に立地していることが多い。 目的Ⅱの温泉熱の多角的な活用と波及効果の発揮からみた温泉地の評価については,前年度に引き続き,源泉数の多さと国内の網羅性により選定された大分,静岡,長野,福島県,北海道の5道県の温泉地を対象に,温泉熱の活用量を推定するために必要なデータを収集した。具体的には,産業技術総合研究所の地質調査総合センターが公開している日本温泉・鉱泉分布図及び一覧(第2版)を入手した。同データベースからは,温泉・鉱泉の位置,温度,湧出量等を入手した。温泉熱の活用量の推定に向けては,前年度に引き続き,温泉熱有効活用に関するガイドライン(環境省自然環境局,2019)等をはじめとする先行研究を参考に評価方法を検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は,後述する通り交付申請書に記載された2つの研究の目的に対して,以下の通りデータ収集及び解析方法の検討し,1つの目的に関して成果の導出に至った。そのため本研究の「研究の目的」の達成度は,「おおむね順調に進展している」と判断される。 (1)第一の目的である事例分析による温泉熱の多角的な活用の実現と持続的な運営スキームの解明については,公表データにより温泉熱の代表的な活用手法の一つである発電事業の対象の全容を把握し,発電規模により事業の特性が異なることを明らかにした。本成果は,サーベイリサーチとインタビューによる運営スキームの解明に向けた基盤的成果といえる。 (2)第二の目的である温泉熱の多角的な活用と波及効果の発揮からみた温泉地の評価については,温泉熱の活用量を推定するために必要なデータを収集した。さらに本年度は,評価手法の構築・解析に係る研究レビューが進展した。次年度は,収集されたデータにより成果が導出される予定である。
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今後の研究の推進方策 |
目的Ⅰの温泉熱の多角的な活用の実現と持続的な運営スキームの解明については,前年度までの成果により特定された発電施設に関わる既存資料の収集と資料不足を補完するインタビューを行い,多角的な活用の実態と運営実態の概要を検討する。そして検討された結果からは,事業者及び発電施設が立地する自治体担当者を対象とした,温泉熱の多角的な活用と運営実態を解明するための調査票を作成し,サーベイリサーチを実施する。サーベイリサーチの結果からは,発電施設を,活用と運営実態から類型化を行う。各類型の代表事例に対しては,活用と運営実態に至るプロセスの把握を目的としたインタビューも実施する予定である。現在,想定しているインタビュー先としては,指宿温泉(鹿児島県指宿市),わいた温泉郷(熊本県阿蘇郡小国町及び大分県玖珠郡九重町),そして別府温泉郷(大分県別府市)を予定している。これらの結果からは,温泉発電を基軸とした温泉熱の多角的な活用の実現及び持続的な運営スキームを考察する。 目的Ⅱの温泉熱の多角的な活用と波及効果の発揮からみた温泉地の評価については,昨年度に収集した温泉及び気象に関わるデータと国内・海外の先行研究のレビューにより構築された評価手法にもとづき,温泉地の温泉熱の多角的な活用と活用による波及効果の評価を行う。 なお得られた成果に関しては,関連学会誌(ランドスケープ研究,農村計画学会誌,都市計画論文集,地下水学会誌等)に投稿する。また,本課題の成果を温泉熱の多角的な活用に関心を持つ方々に対する普及啓発に向けては,調査協力者への成果の報告やホームページへの掲載等を通じて,積極的に取り組む予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度に使用する予定の研究費が生じた経緯は,次の通りである。2022年度は,公表データにもとづき対象事例とその特性を明らかにできた。しかし調査票を作成するために必要な文献調査とインタビューに関しては,前記した研究成果の導出に想定以上の時間を要したため,十分にできなかった。そのためサーベイリサーチも実施できなかった。また温泉熱の多角的な活用と波及効果の発揮からみた温泉地の評価については,温泉地の温泉熱の多角的な活用の潜在能力の評価に必要なデータの収集や手法の検討にこそ着手できたが,それ以外の研究成果の導出に想定以上の時間がかかったため,手法の構築とデータを用いた評価に至らなかった。 次年度使用額については,前年度にインタビューが出来なかった対象地における現地踏査費,サーベイリサーチ実施に係る諸経費,論文投稿費,発表する大会等の参加費及び旅費,そして評価手法の構築に向けた取り組みに係る諸経費等に充てる予定である。
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