研究課題/領域番号 |
21K05660
|
研究機関 | 放送大学 |
研究代表者 |
加藤 和弘 放送大学, 教養学部, 教授 (60242161)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | 都市緑地 / 建築物 / 小規模樹林地 / 鳥類 / 障害物 |
研究実績の概要 |
調査対象地域として1)光ヶ丘団地(東京都練馬区)、2)武里団地・せんげん台団地(埼玉県春日部市、越谷市)、3)新座団地。志木団地(埼玉県新座市、志木市)の3地域にそれぞれ12の調査地点を設定した。調査地点には、a)広い面積にわたって樹冠が連続する大規模樹林地(地域において核となる生息場所となり得る樹林地)、b)周囲に中高層(4階建て以上)の建築物が少ない小規模樹林地、c)周囲の過半を中高層の建築物で囲まれている小規模樹林地が、対象地域ごとにそれぞれ3~5地点含まれるようにした。2022年11月より2023年7月まで、すなわち越冬期と繁殖期1回ずつ、全ての地点を月に1回ずつ訪れて鳥類と植被状況の調査を行った。鳥類の調査は午前8時から午後1時までの間に行い、降水がある時、および風速が6m/sを超える時には調査を行わなかった。樹林地内に半径20mの調査区を設定し、15分間の調査時間中にその中で観察された全ての個体について、種名、個体がいた場所を記録した。また、樹林地に隣接する建築物の壁とその延長線、及び車道で囲われる範囲を建築物と車道による包囲地(仮称)とし、この境界、すなわち樹林地に隣接する建物や道路を超えたり建物の間の隙間を通過したりした個体については、観察できた全てについて超えていったものの種類とおおよその飛翔高度を記録した。植被については、その最大高と階層別植被率、階層別優占種を記録した。 2023年度には繁殖期の調査として各地点4回の調査を行い、全36の調査区で22種1607個体を記録した(不明種を除く)。越冬期における傾向と異なり、a、b、cの間では鳥類種組成に顕著な違いは認められなかった。スズメはcで、メジロはaで多く記録されたが、それぞれのグループ内の変動の様子も含めて検討したところ、周囲の建築物よりも樹林地における植生の構造に対応した変化である可能性を否定できないと考えられた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
調査対象地には人が集まる公園の樹林地も含まれており、そのような場所で調査を行うことは、コロナ禍においては望ましくないと考えられた。そこで、コロナ禍での行動制限が重視された期間中は現地での調査を行わなかった。その結果として、現地調査の開始が2022年11月と予定より大幅に遅れることとなり、結果として計画の進行が実質1年以上遅れてしまった。
|
今後の研究の推進方策 |
越冬期、繁殖期それぞれの状況については3地域で把握できたと考える。当初は、越冬期には鳥類は広範囲を移動しながら食物を確保するのに対し、繁殖期には繁殖のための巣の防衛と雛への食物の運搬を行う必要から巣の比較的近傍で行動しやすいと予測し、建物に囲われた樹林地は繁殖期には鳥類に利用されにくくなると予想した。得られた結果はこの仮説を否定するものであったことから、個体の移動経路についての記録などもさらに分析し、樹林地に隣接する場所にある建築物の影響を明らかにしたい。そのためには、鳥類による樹林地の利用に影響を与えることが既にわかっている要因の影響を除いて結果を分析できるようにする必要があり、衛星画像による広域的な植被状況の分析、建物3次元データによる鳥類の飛翔の容易さの分析を当初の予定通り行って令和6年度中に結論を得る。建物の影響のあり方が都市部と郊外で異なる可能性を考慮し、都市化の影響が少ない茨城県水戸市近郊で既に行った調査結果を本研究の視点から解析することで、結果の補強を試みる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
全体に調査の実施が後ろ倒しになった結果、衛星画像や建築物データの購入や、それらを利用した分析がさらに遅れた。結果、購入費や分析のための経費を支出できず、そのために次年度使用額が生じた。現在、調査対象とした3地域に関する衛星画像、建物データの購入の準備を進めており、6月以降、分析を実行できる準備が整いつつある、
|