研究課題/領域番号 |
21K05662
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
竹内 真一 東海大学, 海洋学部, 教授 (30268817)
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研究分担者 |
田中 伸彦 東海大学, 観光学部, 教授 (70353761)
篠崎 圭太郎 南九州大学, 環境園芸学部, 都城事務部フィールドセンター課 主任 (30842306)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | わさび / わさび田 / 水温 / ボーエン比法 / マイクロライシメータ法 / 水管理 |
研究実績の概要 |
静岡市のわさび栽培は発祥の地として世界農業遺産に登録され、わさび及びわさび田の価値は広く認められるようになった。しかしながら、急岐な立地条件から後継者不足や低い生産性などが問題視され、わさび田の存続が危ぶまれている。本研究では気候変動の影響を受けやすい渓流水源に依存する静岡市の小規模わさび田の環境価値を再認識するために、その成立環境の評価とわさび栽培の持続性を検討することを研究目的としている。 先行調査も含め3年間における33段のわさび田の水温分布の計測結果より、水源に近い上流部は7~15℃、平均11.8℃と安定し、下段は気温の影響により夏に高く、冬に低くなる通年傾向を得るとともに、約18℃の較差が生じていた。さらに局所的に水温変動が生じる箇所を確認した。今年度は、山葵田上段の1,4段目では年間を通じて9.5~14.0℃と安定していたのに対し、中段および下段では1.0~19.5℃と変動が大きく推移した。特に冬期には中段および下段で、水温が生育適温範囲下限値である8.0℃以下にさらされた時間が、いずれも1400時間以上であった。また水量の少ない冬期の最低地温は1.3℃まで低下した。 わさび田の蒸発散量を算定するために、ボーエン比熱収支法とマイクロライシメータ法を適用した。前者は低温流水の影響を受け、二高度の温度差が極小あるいは逆転するというわさび田の特徴がボーエン比熱収支法の適用を困難とし、後者は接触により劣化するわさびの特性が正確な数値を得るのを困難とすることがわかった。さらにわさび田の認知度を高めるために、わさび田を再現した栽培システムを構築し、3か月間のわさび生育を確認するととともに、東海大学自然史博物館にて実物展示を行い、多くの来訪者を得た。わさび栽培を持続するためには、冬期の少雨傾向が危惧される。 今後は観光的な価値を明らかにするなどの計画論的研究も進める予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
共同研究者の現地活動がコロナ禍において制限されていたことにより一部取り組みが遅れている部分がある。
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今後の研究の推進方策 |
33段を有する調査対象のわさび田における計測を継続するととともに、別のサイトにおいて新たな計測を開始する。既に所有者には打診しているところであり、湧水量が少ない時期に循環灌漑を行っている点が特長である。両サイトの距離は8㎞である。この所有者は、比較的大きなわさび田群においても栽培を行っており、孤立する小規模わさび田との様々な比較を行う予定である。厳冬期にはマルチ栽培を行い、ワサビへの低温障害対策としている。さらに、わさび栽培システムを秤量し、温暖な気象条件でのわさび田の蒸発散量を評価する。 観光的な価値を明らかにするための計画論的研究にも着手する。この研究の目的はわさび田の環境を維持しつつ、限界に近づく農業専業的経営に観光の要素を加えることで、わさび田のある文化的な景観を存続させる方策を検討することにある。「Destination Management」と、「Nature-based Tourism」の研究手法により、これまで適用事例の無いわさび田の景観を存続させる方策を体系化することを模索する。 わさび田の複合的な石積み工法を従来の石積み工法(造園・棚田)と比較検討し、その特徴を明らかにして、技術体系を整理する。また、畳石式わさび田の構造を忠実に再現したモデルを構築し、井戸水にて栽培試験を長期的に実施する。 これらの活動を逐次、SNS等により外部発信して、わさび田、わさび栽培の周知度を向上する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍において県境をまたぐ移動制限等があり、共同研究者の現地調査の回数が予定を下回ったことによる。今年度も同様の移動制限が発生する可能性があるため、代表者が現地調査の一部を代行することにより、対応する予定である。
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