気候変動に対する森林の生物多様性の応答予測は、森林生態系サービスの持続的な利用を考える上で重要な課題である。生物の気候変動応答予測には、種の出現記録と気候要因との地理的な相関関係をモデル化し、それを将来の気候スペースに投影する手法が一般的に用いられている(相関ベースモデル)。一方で、現在の種の地理分布には、分散・定着・生存に対する生物的・非生物的フィルタリング及び確率論的プロセスが複合的に影響しているため、現在の気候要因との相関関係が将来的に保持されるかどうかは分からないという問題がある。本研究では、樹木種について、生理・繁殖メカニズムを考慮した更新適地予測モデルを構築するために、1)樹木種の分布に適用可能な機構論的モデルの検討、2)種の生理・繁殖特性に関する基礎データの整備と分析を行った。 1)樹木種の分布に適用可能な機構論的モデルの検討 文献レビューにより、生理メカニズムを考慮したモデル及び、相関ベースモデルと組み合わせたハイブリッド分布予測モデルの適用事例について整理した。樹木種の場合、生理・繁殖特性に関する種レベルのデータが乏しいため、比較的豊富にある地理分布データ(ベータニッチ)を用いて生理・繁殖パラメータを推定するアプローチ(インバース・モデル)が有効であることが示唆された(国内シンポジウムにて発表、投稿準備中) 2)種の生理・繁殖特性 沖縄島北部の亜熱帯林において1998年から2~5年間隔で継続的に実施されている森林モニタリング調査のデータを用いて、種レベルのデモグラフィーパラメータ(成長率、枯死率、新規加入率、萌芽更新率)を明らかにした(投稿準備中)。マクロスケールの樹木種分布データと種子の機能特性(種子散布、種子重、休眠)の地理的パターンを分析し、気候フィルターの影響を明らかにした(Fuji et al. 2023; Ulrich et al. 2023)。
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