研究課題/領域番号 |
21K05699
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
荒川 圭太 北海道大学, 農学研究院, 准教授 (00241381)
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研究分担者 |
重冨 顕吾 北海道大学, 農学研究院, 講師 (20547202)
鈴木 伸吾 北海道大学, 歯学研究院, 技術職員 (70847839)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 樹皮 / 細胞壁 / 氷核活性 / 凍結挙動 / 落葉広葉樹 |
研究実績の概要 |
本研究では、カツラ樹皮で検出される氷核活性の原因物質を特定し、氷点下温度での凍結を促す細胞壁の機能を調べ、氷核活性と細胞外凍結との関連性などについて検討することを目的としている。令和4年度は、カツラ樹皮由来の氷核活性物質の諸性質について調べることを主な目標とした。 夏から冬にかけて採集したカツラの枝から樹皮と木部を分離し、それぞれの組織を用いて凍結抵抗性試験をおこなって凍結抵抗性の季節変化を調べるとともに、示差熱分析によって枝や樹皮、木部の凍結開始温度を測定したり、細胞壁を含む粗抽出画分を調製して氷核活性を測定した。これらの実験を通じてカツラの枝の季節的な低温馴化過程におけるこれらの因子の変化を調べた。これらの結果を比べてみると、木部よりも樹皮の方が凍結しやすい傾向にあることや樹皮の凍結開始温度の方がわずかに季節変化に応答したようだと考えられた。さらに、これらの現象がカツラ以外の落葉広葉樹種についても見出されるのか否かを調べることにした。すると、その他の落葉広葉樹種でも、カツラと同様に、樹皮組織の方が先に凍結を開始する傾向がみられた。また、これらの中の数種の枝の各組織から細胞壁画分を含む粗抽出物画分を調製して氷核活性を比べてみると、木部よりも樹皮の粗抽出物画分の方が高い氷核活性が検出された。これらのことから、カツラ以外の落葉広葉樹種でも、深過冷却する木部と比べると細胞外凍結する樹皮の方が細胞壁における氷核活性が高い傾向にあることが示唆された。そのため、細胞壁における氷核活性という観点から考えると、これらの樹木の枝では、木部と比べると樹皮の方がアポプラストに分布する水は凍結しやすい条件下におかれているものと予想された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度には、カツラ樹皮由来の細胞壁成分が凍結を誘発しやすい活性(氷核活性)を有することやその原因物質を特定したため、次年度には冬季における細胞壁機能としての氷核活性の性質を調べることを中心に研究を進めることにした。カツラの樹皮と木部を用い、低温馴化過程における氷核活性の推移を比較することで、樹皮の方が木部に比べて活性がやや高い傾向にあることや季節変化も多少みられる傾向にあることが見出された。そのため、枝のアポプラスト(細胞外)に分布する水の凍結には樹皮の細胞壁画分の氷核活性が関与しうることが考えられた。また、カツラ以外に複数の落葉広葉樹種を用いて同様の実験をおこなうことができ、カツラと類似した傾向にあることも示唆された。このように着実に知見を蓄積することができているので、概ね順調に研究が進んできたものと判断した。今後も継続して活性成分に関する性質や樹木の細胞壁画分が関与する凍結現象について調べると共に、研究成果を取りまとめていくよう考えている。最終年度も研究計画に沿って実験を重ねて知見を得ていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
概ね、以下のような研究計画に沿って実施する予定である。 細胞外凍結する落葉広葉樹の枝の樹皮を用いて凍結を促す氷核活性の性質を調べてきた。今年度も、昨年度に引き続き、細胞壁画分に由来する氷核活性の諸性質を精査する。例えば、細胞壁画分が有する氷核活性の普遍性や分布について注目して実験をおこなう予定である。そのため、昨年度の実験で用いた落葉広葉樹に加えて針葉樹についても同様の活性が検出されるか否かを検証する。また、細胞外凍結する樹皮だけに限らず、器官外凍結する冬芽でも積極的に細胞外氷晶を蓄積するような部位が見られるため、そのような部位から得られた細胞壁画分でも同様な氷核活性が検出されるのかなどについて調べていきたい。もしも時間が許すようであれば、組織が凍結する様子を観察したり、さらには、季節変動や抗氷核ポリフェノールによる活性阻害の有無、氷核活性を有する細胞壁画分などを凍結を促進するための植物資材として利用できないか等々について、随時、簡便に検証するような予備実験も進めていきたいと考えている。また、最終年度であるため、得られた研究成果をできる限り公表できるように適宜取りまとめていくことも予定したい。
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