研究課題/領域番号 |
21K05705
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
小堀 光 静岡大学, 農学部, 助教 (20612881)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 食材性昆虫 / フラス / 木質複合材料 |
研究実績の概要 |
本研究は、木部に穿孔する様々な食材性昆虫の残渣(糞やフラス)から、木質材料や複合材料の原料として利用可能な機能性を有するものを探索することである。今年度は、候補種の探索を目的として主に野外調査を行い、コクワガタ、トウカイコルリクワガタ、カブトムシ、ハナムグリ亜科の一種、ヤマトシロアリ、ベニカミキリ等の残渣を得た。また、昆虫ではないものの調査時に得られたヤンバルトサカヤスデの糞も採集した。これらの残渣の嵩比重を比較したところ、カブトムシ由来の残渣がもっとも嵩比重が小さく、(0.13 g/cm3)、ヤンバルトサカヤスデ由来の残渣が最も大きかった(0.24 g/cm3)。嵩比重は母材の樹種や虫体の大きさに依存するが、気乾状態で概ね0.1~0.3 g/cm3程度となることが示唆された。また、母材と残渣の近赤外拡散反射スペクトルを比較したところ、多くの残渣でヘミセルロースの分解が示唆されたが、コクワガタ由来の残渣ではこれに加えてセルロースの分解が進んでいることが示唆された。しかしながら、クワガタムシ科のフラスと母材間の化学的な違いは、クワガタムシ科の幼虫が専ら母材に侵入した木材腐朽菌を摂食・消化したものであり、木材自体を栄養源としているものではないと考えられた。各フラスの形態を電子顕微鏡で観察したところ、同一の種であってもフラスの形態には大きなばらつきが見られ、これは虫体が穿孔していた母材の組織構造や腐朽の程度によるものが大きいと考えられた。しかしながら、コガネムシ上科の残渣は概ね長さ数百μm程度のアスペクト比の低い木粉となっており、表面の一部に数μmオーダーのフィブリル化構造を有することが明らかとなった。表面にフィブリル化構造を持つ木粉は、ウッドプラスチックコンポジットの機械的特性を向上させることが知られていることから、コガネムシ上科の残渣が原料として利用できる可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初研究計画において、残渣の成分分析および形態評価は、変換効率を含め飼育条件下で行う予定であった。しかしながら、膨大な食材性昆虫群のすべてを飼育することは不可能であるため、これらの中から候補となる種をある程度絞り込むためには多様な残渣の基礎的なデータの蓄積が先決であると考えられた。そこで、今年度は飼育による評価を見送り、野外調査による多様な食材性昆虫の残渣の収集に専念した。したがって、今年度は飼育が必要な変換効率の定量的な評価は行えていない。一方で、野外で得られた残渣と穿孔していた母材の成分分析と形態評価を先行して行うことで、本研究の最終目標である木質複合材料、特にウッドプラスチックコンポジットへの利用可能性のある種を明らかにすることができた。野外調査ではさまざまな環境・母材から多くの残渣が得られ、母材との比較による評価を行った。しかしながら、不朽が進んでいて母材の樹種の特定が困難なものや、すでに虫体が脱出して種の特定が困難なものもあり、候補種の選定に至らないものも多く、候補種の絞り込みは想定通りには進んでいないのが現状である。
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今後の研究の推進方策 |
今後も継続して野外調査を行い、候補種の探索を行うとともに、随時飼育による変換効率の評価を行う。採集した候補種を温湿度一定の条件下で飼育し、所定の期間(候補種の生育速度に合わせて1週間から1か月に1度程度)での残渣の産生量を計測する。また母材の質量損失を計測し、変換効率を評価する。また、産生した残渣と含水率を測定し、乾燥にかかるコストを評価するとともに、調湿下における母材と残渣の平衡含水率を比較し、吸質性を評価する。残渣の化学成分・形態分析として、近赤外分光分析により、残渣の主成分を分析する。母材を粉砕して得た木粉のスペクトルと、残渣のスペクトルの変動を多変量解析によって抽出し、分解の程度を評価する。加えて、熱重量分析、X線回折を併用し、セルロース結晶化度の変化等を評価する。残渣の形態観察としては、表面形状を走査型電子顕微鏡で確認するとともに、粒子径分布測定装置等を用いて粒度分布を評価する。また、凍結乾燥あるいは熱乾燥した残渣のかさ比重、比表面積等を測定し、残渣の表面形状や粒径等を評価する。 これらのデータに基づき残渣の材料としての総合的な評価と、応用可能性のある分野の絞り込みを行う。 得られた残渣のうち、応用可能性のある複合材料が見つかった場合、残渣をそのまま、あるいはさらに解繊してリグノセルロースナノファイバー等を製造し、木質ボードや多孔質材料、混錬型ウッドプラスチックコンポジット等の木質材料を試作する。従来の原料を利用して作成した材料と基礎物性の比較を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は当初計画の飼育を行っていないため、飼育に必要な卓上型恒温恒湿槽を購入していない。また、調査地も主にキャンパス近隣を主としたため、旅費の費用もない。次年度は飼育に必要な備品及び遠方への調査、学会発表等に使用予定である。
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