樹木は、加齢にともない性質の著しく異なる木部組織を形成する。この現象は、適切な森林の管理・育成や木材資源の有効利用と深く関連するが、未だ本質的な理解に至っていない。本研究の目的は、加齢にともなう木材性質変動を、単一の性質で直接的におうのではなく、多数の性質(情報)を用いて包括的に評価し、得られた結果を物理学的に考察することである。前年度は針葉樹4種を対象に所定の実験・データ解析を行い、樹種の違いに依らず、樹木は樹齢を重ねるにつれてより秩序化した状態になることを確認した。また、この変化は不可逆的なものであることから木材資源の再生産に対する新たな知見を提案した。 今年度は広葉樹4種のサンプル収集および実験を終えた。データ解析の結果、針葉樹の場合と同様に、樹種の違いに依存しない普遍的な加齢現象を確認した。すなわち、各樹齢に対応した木部から計測した近赤外スペクトルのデータ行列の固有値は、加齢にともない拡散する傾向が認められた。この固有値分布からヘルムホルツ自由エネルギーやエントロピーを計算した結果、樹木は加齢にともないより秩序化した状態になることが示唆された。また、得られた固有値と固有ベクトルから算出される密度行列の時間発展を検討した結果、広葉樹についても加齢現象は明らかに不可逆的な過程であることも分かった。以上の結果は同じ性質(状態)の木材を再生産することは不可能であることを意味しており、木材資源の持続可能な利用に対して重要な示唆を与えるものと考えられる。
|