研究課題/領域番号 |
21K05712
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
中島 大輔 九州大学, 農学研究院, 特任助教 (70645978)
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研究分担者 |
吉村 友里 九州大学, 農学研究院, 学術研究員 (10734262)
大貫 宏一郎 近畿大学, 産業理工学部, 教授 (50378668)
藤本 登留 九州大学, 農学研究院, 准教授 (80238617)
清水 邦義 九州大学, 農学研究院, 准教授 (20346836)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | スギ材 / 香り成分/香り分子 / ガスクロマトグラフィー質量分析装計(GC-MS) / セスキテルペン / 事象関連電位 (ERP) / ミスマッチ陰性電位 (MMN) / P300 (P3b) / 自律神経系 |
研究実績の概要 |
スギ無垢材を内装材とした実験室と、樹脂系建材を内装材とした実験室において、ガスクロマトグラフィー質量分析装置(GC-MS)によりスギ材から揮発する香り成分を分析した。その結果、スギ無垢材を内装材とした実験室において、高濃度のセスキテルペン類が検出された。さらにスギ無垢材室と樹脂系建材室で成人被験者18名の事象関連電位成分(ERP)を記録した。その結果、注意/予期などに関わるミスマッチ陰性電位(MMN)振幅は、高濃度セスキテルペンが検出されるスギ無垢材室で陰性シフトが大きかった。無垢のスギ材から揮発する香り分子であるセスキテルペン類は、脳内の注意や予期などを亢進する可能性が示唆された。 さらに、防音室を用いて作成した実験室内に、0, 1, 3, 5枚のスギ板材を内装材としてそれぞれランダムに設置し、スギ材から揮発するセスキテルペン類の濃度を変化させつつ、異なるセスキテルペン濃度がヒトに与える心理生理的影響を比較検討した。その結果、スギ材枚数が1枚のとき、ボタン押し課題の正答率が上昇し、反応時間が早まった。同時にP300(P3b)潜時が有意に短縮した。セスキテルペン類が低濃度の場合、注意/予期/記憶を要する作業の効率が高まる可能性が示唆された。一方、スギ材枚数が3枚や5枚の場合、Profile of Mood Statesによって測定したネガティブ感情は低下し、心電図R-R間隔による交感神経活動は抑制された。さらにボタン押し課題後の脳波α帯域およびθ帯域振幅は増大する傾向であった。中・高濃度のセスキテルペンは、気分を改善し、作業後の安静・鎮静効果を誘導する可能性が示唆された。 以上より、スギ材から揮発する香り成分であるセスキテルペン類は、脳内の注意/予期/記憶機能を亢進させつつ、リラックスやネガティブ感情改善効果など、濃度依存的に異なる心理生理機能を亢進させる可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
スギ材から揮発するセスキテルペン類の同定と定量化が完了している。セスキテルペン類が脳内の注意や予期および記憶に与える影響が明らかになりつつある。さらにスギ材から揮発するセスキテルペン類による濃度依存的な心理生理機能亢進作用が明らかになりつつある。
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今後の研究の推進方策 |
スギ板材から揮発するセスキテルペン濃度の定量値と心理生理的測定値の相関関係や因果関係を多変量解析を用いて統計学的に探索する。また、今年度行った板材枚数を条件とした場合のセスキテルペン濃度範囲は、日本における冬季から春季における濃度であったため、夏季から秋季における濃度範囲の実験を追加し、通年のセスキテルペン濃度が心理生理機能に与える影響を検討する。また、リクルートできるボランティア被験者の群や特性によっては、セスキテルペンが高濃度となるスギ内装材環境において神経心理学的検査を施行し、注意/記憶/予期などに与える行動学的に詳細に探索し、スギ材の香り成分が日常生活に与える影響を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度は、第72回日本木材学会がオンライン開催となった。そのため計上していた旅費が未使用となった。2022年度のまた、被験者謝金を計上していたが、2021年度はボランティア被験者の協力が得られたため未使用となった。これらの未使用額は、2022年度以降の被験者謝金や使用機会が増えると見込まれる、2022年度以降における論文掲載料や英文校正費用などに繰り越して使用予定である。2021年度の研究成果を学術誌に投稿しているが、査読中であるため論文出版費用が未使用となった。引き続き2022年度以降の論文掲載料として使用予定である。脳波測定用機器は、国際的半導体等不足による納期遅れにより2021年度に納品が間に合わないため、年度末での無理な使用を避け、2022年度に発注することとし使用を繰り越した。
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