研究課題/領域番号 |
21K05716
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研究機関 | 国立研究開発法人森林研究・整備機構 |
研究代表者 |
戸川 英二 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 主任研究員 (60343810)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | セルロース / 液体ビー玉 / シランカップリング剤 / 疎水化 |
研究実績の概要 |
疎水性の微粒子を用いて空気-水分散系の安定化を図ると、水滴が微粒子でカプセル化された球体、液体ビー玉(リキッドマーブル)が形成される。具体的には、マイクロメートルサイズ程度に微粒子化したセルロースの表面を疎水化した後、そこに小さな水滴を落とすと、水滴はその表面にセルロース微粒子を吸着し、水滴がセルロースによって被覆・カプセル化された球体が形成される。これがセルロース液体ビー玉である。この液体ビー玉は、水溶液の吸蔵や非汚染的な輸送、高粘度水溶液の固体的取り扱い性の付与、ガスセンサーなどへの応用が期待される。 本研究では、疎水化したセルロース微粒子と水(水溶液)を用いて、液体ビー玉の形成条件およびその特性を解明するため、セルロース液体ビー玉の形成を制御する因子の解明、および特性評価を行なうことを目的としている。 当年度は、セルロース微粒子(パウダー)に対し、各種(アルキル鎖長の長短)シランカップリング剤を簡便にコーティングする方法を検討した。 最初にメチルトリメトキシシランの気相コーティングを適用して、セルロースパウダーの疎水化を行なった。この疎水化セルロースを使用した結果、セルロース液体ビー玉を容易に調製することができた。この液体ビー玉を偏光顕微鏡で観察したところ、水滴表面にセルロースパウダーが吸着している様子が確認できた。また内包液に関し、コンゴーレッドなどの染料を用いて液滴を着色しても液体ビー玉は問題なく形成した。次に、長鎖アルキル基を有するシランカップリング剤での疎水コーティングを可能にするため、液相コーティング法の確立を試みた。その結果、シランカップリング剤/プロパノール/チタンテトライソプロポキシドの三成分の組み合わせで、セルロースパウダーを長鎖アルキル基によって疎水化でき、液体ビー玉を形成させることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初から当該(初)年度に計画していた研究内容、①液体ビー玉の形成を制御する因子の解析:セルロースパウダーの簡便な疎水化方法の確立と得られた疎水化したセルロースパウダーの分析、②液体ビー玉の解析:顕微鏡形態観察に関し、①・②、それぞれ検討を行ない成果を出すことができた。 ①に関しては、用いるシランカップリング剤の化学構造と性質によって気相法と液相法を使い分ける簡便なパウダー疎水化スキームを開発した。②では偏光顕微鏡を用いて液体ビー玉の構造解析を行ない、当初計画をほぼ達成している。
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今後の研究の推進方策 |
液体ビー玉を機能材料として展開させるためには、使用する液滴は純粋な水に限らず、種々の性質を有する液体について検討する必要がある。そこで、滴下する水滴の容量ならびに水のpHを変化させてその影響を調べる。さらに、液滴の粘度や極性を変え、それぞれの影響を検討する。これは、液中に有用物質を添加した状態と仮定できるため、今後の応用展開に関する知見も得られる。以上の結果から、セルロース液体ビー玉を形成する条件を明らかにする。 セルロース液体ビー玉の特性評価は、形態観察および形状安定性(破裂強度)から評価する。微粒子のサイズが形成や特性に与える影響を調べるため、疎水化したセルロース微粒子の形状やサイズは各種顕微鏡などを用いて観察・計測する。液体ビー玉本体の内部は液体である。したがって液体ビー玉の本体は、光学顕微鏡をはじめとした各種顕微鏡を用いてそのサイズや形態など、構造的な特性を明らかにする。また、液体ビー玉の安定性は、その破裂度合い(合一性)から評価する。具体的には、液体ビー玉が破裂する際の物理量(力や落下高さ)を求める。上記の結果を総合的に評価することによって、セルロース液体ビー玉の形成メカニズムおよび特性を解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナパンデミックの影響による製品の欠損および物流の停滞によって、調達を計画していた物品の(年度内)納入が困難となった。たとえば、前者では半導体不足による製品の生産中止、後者では海外製品による納品日時未定があった。さらに、参加を予定していた学会・シンポジウムのほとんどが中止もしくはオンライン開催となったため、旅費としての支出ができなかった。以上の理由によって次年度使用額が発生した。 本年度は早期の助成金執行を行なうことで、次年度使用額を発生させないようにする。
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