全期間を通じた研究内容は、1.精油成分の酸化反応に関わる環境条件の解明、2.精油成分の反応挙動の解明と酸化生成物の同定、3.トドマツ病原菌類に対する酸化精油の活性評価の3点であり、本年度は主に上記3について検討した。 昨年度までに確立した効率的な紫外線処理条件(405nm、20℃、4時間)で酸化処理したトドマツ精油を用いて、がん腫病原因菌(Lachnellula calyciformis)、枝枯病原因菌(Gremmeniella abietina)、暗色雪腐病原因菌(Racodium therryanum)の3種のトドマツ病原菌類に対する菌糸成長阻害活性を評価した。なお、徐放目的としてβ-シクロデキストリン(CD)に包接した精油を培地に添加する方法を選択し、精油の添加濃度は培地中でトドマツ樹皮と同程度(5g/kgfw)となるように調製した。コントロールに対する菌糸成長阻害率から各菌に対する酸化処理前と処理後の精油の抗菌性を評価した結果、がん腫病原因菌および枝枯病原因菌に対する抗菌性が有意に増加することを明らかにした。暗色雪腐病原因菌に対しては処理前後で大きな変化は認められなかった。これらの結果から、樹皮精油の酸化物が一部のトドマツ病原菌に対する防御物質として機能している可能性が初めて示された。 全期間を通じた主な成果として、1.精油成分の酸化反応に関わる環境条件の解明に関する内容として、紫外線を利用した精油の促進酸化技術を確立したこと、2.精油成分の反応挙動の解明と酸化生成物の同定に関する内容として、β-フェランドレンの効果的な酸化条件と酸化生成物を明確化したこと、3.トドマツ病原菌類に対する酸化精油の活性評価に関する内容として、紫外線酸化された樹皮精油と病原菌類との関係性の一端を解明したことが挙げられる。
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