研究実績の概要 |
本研究の目的は,マダラの野外採集仔稚魚から「母親効果」を検出するとともに,初期生残にかかわる諸仮説を網羅的に解明することである。 陸奥湾で2019,2022-2023年の5月に採集されたマダラ着底稚魚の平均体重は,2018年以前に採集された稚魚の-57~-72%を示し小型だった。2月に採集したマダラ浮遊仔魚と5月稚魚の孵化日を比較したところ,仔魚は1月下旬以降に孵化していたが,稚魚は2月中旬以降の個体しか出現せず,早期孵化個体の高い死亡率が稚魚の小型化の原因と考えられた。 2023,2024年の1月に定置網で漁獲されたマダラ雌親魚から採卵し,人工授精による飼育実験を行った。雌親魚の体長や体重は卵径とは有意な相関はなく(p=0.49, 0.59),孵化仔魚の飢餓耐性とも相関はなかった(p=0.79)。孵化体長は卵径と相関はなかったが(p=0.15),孵化時耳石径とは正の相関があったことから(r=0.61, p<0.01),母親の属性よりも受精後の発生過程の相違の方が胚の大型化に影響しやすいと判定した。 2015-2019年の5月採集された稚魚の胃内容物組成を,既往の1991, 1993, 1995, 1997年の食性と比較した。年によって餌生物種と体サイズは大きく異なり,1mg以上の大型餌(アナジャコ・ヤドカリ・カニ類メガロパ幼生,底生ヨコエビ亜目,稚魚,Neocalanus属かいあし類,等)の重量割合と,稚魚期までの累積的生残率の間には有意な正の相関を示した(r=0.69, p=0.038)。また,0.1mg未満の小型餌(主に小型カラヌス目と尾虫目)の重量割合と肥満度の間には有意な負の相関がみられた(r=-0.72, p=0.028)。マダラ稚魚の生残率の向上には,1mg以上の餌との遭遇が重要で,0.1mg以下の餌は捕食しても栄養状態の向上には貢献しないと推定した。
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