研究課題/領域番号 |
21K05724
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研究機関 | 宮城教育大学 |
研究代表者 |
棟方 有宗 宮城教育大学, 教育学部, 准教授 (10361213)
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研究分担者 |
清水 宗敬 北海道大学, 北方生物圏フィールド科学センター, 教授 (90431337)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | サケ科魚類 / 太平洋サケ / 種苗生産 / セルフソーティング / 成長ホルモン / インスリン様成長因子 / サクラマス / シロサケ |
研究実績の概要 |
太平洋サケ属等のサケ科魚類において、放流や海面養殖、河川の遊漁等に好適な種苗を稚魚の環境選好性を用いて自発的に選抜(セルフソーティング)させるとともに、選抜した種苗の性質を生理学的に評価する手法を開発するため、今年度はまず成長ホルモン(GH)の測定系を構築した。具体的には、精製したシロザケ(以下サケ)のGHをユーロピウムにて標識し、競合法による時間分解蛍光免疫測定系を構築した。これにより本研究ではインスリン様成長因子(IGF)-1、ナトリウム-カリウムATPase(NKA)活性、GH、甲状腺ホルモン、コルチゾルと言った、サケ科魚類の成長や海水適応能評価に重要な複数の生理的指標の測定が可能となった。 セルフソーティング手法の開発に関しては、サケの高温、低温選好種苗のセルフソーティング手法を開発するため、左右で水温が異なる温度勾配水槽を作成した。この水槽にサケ稚魚を収容してセルフソーティングさせたところ、高・低水温群で体サイズや肥満度が異なることが示唆された。今後、これらの2群間のGHやIGF量を比較することで、高・低水温選好群の選抜と選抜種苗の生理的評価ができると考えられた。 また今年度はニジマスの給餌量・体サイズと鰓NKA活性との関係を調べた。ニジマスを給餌量を変えて(飽食と1/2飽食)飼育したところ、飽食群において鰓NKAが高くなることが判った。また実験魚の体サイズや成長率と鰓NKAの間に正の相関があることも明らかとなった。これらの結果を踏まえると、今後、ニジマスの高成長群を選抜することで、海水適応能がより早期に発達する種苗を選抜し、海面養殖種苗の生残率の向上に反映できる可能性が示された。今後は、さらに鰓NKA活性が高い個体をセルフソーティングさせる方法の開発が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の研究では太平洋サケ属の環境選好性に基づく行動学的選抜(セルフソーティング)手法の開発と、選抜した種苗の生理学的評価手法の開発を目指している。今年度は、選抜方法として、水温勾配水槽におけるサケ稚魚の高・低温選好種苗の選抜法の開発に着手するとともに、ニジマスの海面養殖に寄与する知見として、高給餌・高成長群がより高い鰓NKA活性を示すことを明らかにするなど、今後の手法開発に通じる充分な知見を得ることができたと考えている。 また本研究では太平洋サケ属の稚魚をセルフソーティングさせた後、複数の生理的指標によって選抜魚の生理学的特性について評価することも目指している。今年度は、太平洋サケの成長や銀化変態、海水適応において重要な役割を演じる因子として知られる成長ホルモン(GH)の血中量の時間分解蛍光免疫測定法による測定系を構築することが出来ており、今後、多くのサケ科魚類のセルフソーティング結果の生理学的裏付けをとるための有益なツールを得ることができたと考えている。またこの手法に加えて本研究ではIGF-1やNKA、甲状腺ホルモン、コルチゾル、ステロイドといった、複数の生理学的パラメーターの測定結果を適宜組み合わせることで、セルフソーティングした太平洋サケ種苗の選抜種苗としての適性や妥当性についても多面的に評価できる体制が整ったと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究では、水温勾配水槽におけるサケ稚魚の高・低水温選好種苗の選抜方法の開発、ならびにニジマス種苗における体サイズと鰓NKA活性の相関を明らかにすることができた。次年度は、上記の実験の再現性を確認するとともに、研究計画に則り、同じ太平洋サケ属のサクラマスを対象に、人工水路における上・下流選好群の選抜、ならびにサケ、ニジマスの淡水・塩水選好群の選抜方法の開発を進める計画である。 また、今年度構築した血中GH測定系を含む、各種生理学的測定手法を用いて上記のサケ、ニジマス、サクラマス等の選抜種苗の生理学的評価を行う計画である。また、昨年度は新型感染症の流行のために実施できなかった国外機関(米国、台湾)との共同研究にも取り組み、その中で、マスノスケやタイワンマス(サクラマスの亜種)種苗のセルフソーティング手法や生理学的評価手法の開発に取り組む計画である。 また、上記のセルフソーティング手法や生理学的評価手法が確立された後には、合わせてこれまでとは別の魚種にも同様の選抜手法や生理学的評価手法が適用可能か否かを順次、調べる計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、2021年度は北海道の共同研究機関やオレゴン州立大学等の国外共同研究機関への訪問研究のための旅費を計上していたが、新型感染症の流行の影響によりこれらの機関への出張や物品費等の支出を取りやめたため、次年度使用額が生じたものである。 2022年度は、新型感染症の流行の影響が緩和されれば、昨年度の分も含めて訪問研究を実施することとしたいが、引き続き、他機関への訪問研究が困難な場合は、次年度差額分を出張可能範囲内への出張や物品費等に適宜振り替える考えである。ただし、同一の研究機関の研究スペースや実験魚の飼育・観察スペースには限度があるため、実際には研究の一部を次年度に先送りする可能性も残ると考えている。
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