研究課題/領域番号 |
21K05724
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研究機関 | 宮城教育大学 |
研究代表者 |
棟方 有宗 宮城教育大学, 教育学部, 准教授 (10361213)
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研究分担者 |
清水 宗敬 北海道大学, 北方生物圏フィールド科学センター, 教授 (90431337)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | サクラマス / シロサケ / 自発的行動 / サロゲート / 水温 / 行動 / 体サイズ / 肥満度 |
研究実績の概要 |
今年度は前年度に作成した、左右で温度勾配がある水温選択用行動実験水槽を用いて低・高水温域を選好するシロサケ・サクラマス種苗の自発的選抜(セルフソーティング)手法を開発した。 まず、近年特に本州太平洋沿岸域で回帰資源量の減少が顕在化しているシロサケの増殖に資することを目的として上記の水槽を用いて低水温域を選好するシロサケ種苗のセルフソーティングを試みた。これは、低水温域を選好する稚魚はより早く北太平洋海域を低水温域(北方)へと向けて回遊するとの仮説による。人工シロサケの当歳魚稚魚を低・高温水槽を選択可能な上記の行動水槽に収容して一晩、自発的にソーティングさせたところ、低温水槽を選択した稚魚は高温水槽を選択した稚魚に比べて体長、体重が大きく、肥満度が小さい傾向を示すことが明らかとなった。また、これらの稚魚を数か月間飼育したところ、低温選択群と高温選択群の体サイズ差はそのまま保たれることが分かった。これらの結果から、水温選好性の異なる稚魚を自発的な行動によって選抜できること、またこうして選抜した稚魚は体サイズ、特に肥満度が異なることが明らかとなった。 次に、同じ水槽を用いてサクラマスのセルフソーティング実験を行った。その結果、高温水槽を自発的に選択した稚魚は低温水槽を選択した稚魚に比べて体長、体重が大きく、肥満度が小さい傾向を示すことが明らかとなった。また、これらの実験魚を数か月間にわたって飼育したところ、両群の体サイズ差はそのまま保たれることが分かった。 以上の結果から、シロサケ、サクラマスの人工種苗の低・高水温選好性を自発的行動によって選抜できることが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の研究によって、サケ科のシロサケおよびサクラマスの低・高水温選好種苗を自発的な行動(セルフソーティング)によって選抜する実験手法を開発することに成功した。また、セルフソーティングによって選抜された低・高水温選好群では体長、体重、肥満度といった体サイズが群間で異なることも明らかとなった。また、シロサケとサクラマスではこうした体サイズの指標の大小の関係性が一部逆転していることもわかった。特に、肥満度に関してはシロサケでは低水温選択群が高水温選択群よりも低く、サクラマスでは反対に高水温選択群が低水温選択群よりも低くなる結果となった。これらの結果の解釈としては、以下の仮説を考えている。すなわち、シロサケ・サクラマスともに、肥満度が低い個体はスモルト化が進行していた個体である可能性が考えられる。この仮説を踏まえると、シロサケの低水温選択群は実験時期も加味すると、スモルト化が進行したことを受けてより海水温が低い北洋への回遊を指向しており、一方でサクラマスの高水温選択群はスモルト化が進行したことでより水温が高い川の下流域への移動(降河回遊)を指向していたものと考えられる。 以上のように、今年度の研究ではセルフソーティングによって選抜した低・高水温選択群が異なる外形(体サイズ)を示すことが分かったことから、今後は昨年度に開発した生理的指標に加えてこうした外形的指標に基づいて稚魚を選抜することも可能になると期待された。
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今後の研究の推進方策 |
今年度までに開発した低・高水温選択用行動実験水槽を用いてセルフソーティング実験を行った結果、シロサケにおいては肥満度の低い個体が低水温選好性を示したことから、こうしたスリムな体型を持つ個体はより早期に水温の低い北洋への北上回遊を発現し得る選抜種苗となる可能性が示された。またサクラマスにおいては肥満度の低い個体が高水温選好性を示したことから、こうした個体は水温が高い川の下流域への降河回遊行動をより早期に発現し得る選抜種苗であることが示唆された。 これらの結果を踏まえると、将来的にはこれらの体サイズ指標を用いることで、セルフソーティング手法に依らずに、海域をより早期に北上し得るシロサケ種苗や川をより積極的に降河し得るサクラマス種苗を選抜できるようになる可能性も考えられる。 本研究では主にセルフソーティングによってある種の好適種苗を選抜することを目指しているが、その際の欠点は、種苗全体に比して、ある条件に合致する好適種苗の個体数が少なくなってしまうことにあった。一方、今年度の研究で明らかとなった、低・高温選好種苗の体サイズや、従来の研究で明らかになっているホルモンなどの生理的因子を指標として、主に飼育技術の改良によって好適な種苗を養成することも今後は可能になると考えられ、それが実現すれば、セルフソーティング以上の高い効率で低・高水温選好種苗等を人工的に生産できるようになることも期待される。 また、今年度は水温の勾配によるセルフソーティング手法が開発できたことから、今後は塩分濃度や光条件といった他の環境要因によるセルフソーティング手法の開発にも結び付くと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度に実施を予定していた出張等の予定がコロナ禍の影響で順延となったため、また、それに伴い物品費の一部が未執行となったため、2023年度に繰り越して支出することを計画している。
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