研究課題/領域番号 |
21K05729
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研究機関 | 石巻専修大学 |
研究代表者 |
太田 尚志 石巻専修大学, 理工学部, 教授 (20364416)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | スギ花粉 / プランクトン生態系 / 動物プランクトン / 陸起源粒状有機物 / 海洋食物連鎖 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、スギ花粉が春季の沿岸域プランクトン生態系に及ぼす影響を定量的に評価することである。主な課題である、1 沿岸域における水中スギ花粉の動態把握、2 動物プランクトンによるスギ花粉摂食速度と同化効率の測定、3 動物プランクトンのスギ花粉摂食の影響(成 長、生殖、産卵・孵化率への影響)評価について、初年度(R3年度)の実施状況報告を以下に述べる。 課題1 R3年度は、沿岸海域におけるスギ花粉の分布範囲を調べる一環として、水中スギ花粉の鉛直・水平分布、および、大気から粒状有機炭素の負荷量の計測を行った。鉛直分布調査は、R4年3月下旬に、石巻沿岸の観測定点(水深10m )で実施した。同測点ではCTD観測のほか、プランクトンネット鉛直曳による動物プランクトン(スギ花粉の捕食者)定量採集も行った。水平分布調査はR4年4月上旬に石巻沿岸の北上川河口から沖に向けて設定した約5kmの観測ラインで行った。採取試料は現在分析中である。 課題2 動物プランクトンの摂食によるスギ花粉除去量を推定する上で必要となるスギ花粉摂食速度に関する知見を蓄積するため、ネット採集で得た動物プランクトン(シオダマリミジンコ)を用いて、スギ花粉の摂食実験を行った。餌料には植物プランクトンとスギ花粉懸濁液を添加し、実験 前後の各餌料密度変化量を検鏡計数した。 課題3 スギ花粉が動物プランクトンの繁殖にどのような影響を及ぼしうるかを評価するため、シオダマリミジンコを対象に室内実験を行った。コントロール区は植物プランクトンのみ、実験区は植物プランクトンとスギ花粉の混合餌料区とし、2世代にわたる長期間飼育を通して、幼生期、成体期における成長率・死亡率、および、生殖に成功した雌個体については、抱卵率、産卵率、孵化成功率を測定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
課題1では、傭船依頼先の業務都合(R3年度の冬季間に悪天が続いたことで牡蠣の水揚げ・出荷作業が1ヶ月後ろにずれ込んだ)で傭船手配が困難となったため、実施直前に、調査海域を傭船都合のつく近隣の別海域に変更した。このことで、予定していた3月初旬には船を出しての調査、試料採集が行えず、2週間遅れで(3月下旬)調査を開始した。これにより、今年度は花粉飛散期間の初期のデータを得ることができず、また、当初予定していた調査項目のうちセディメントトラップ(水中スギ花粉沈降量を計測するために必要な装置)の設置もできなかった。しかし、それ以降の時期については計画通り、鉛直分布と水平分布を把握するための調査を実施できた。課題2については、実験に必要なシオダマリミジンコの検体数を確保するための繁殖飼育作業に時間を要したため、摂食実験は、スギ花粉摂食の有無の確認、および餌料濃度を固定しての実験(計画では多段階濃度での摂食実験を予定していた)にとどまり、また、同化効率の測定も次年度以降に延期することとした。しかし、この実験により、シオダマリミジンコ成体期以降でスギ花粉の摂食が可能となること、スギ花粉は成体の生残率に影響を及ぼさないことが明らかとなり、課題3の、スギ花粉摂食が動物プランクトンの繁殖にどのような影響を及ぼすかについての実験に向けて大きく前進した。一方、スギ花粉のみを与えた場合は糞粒膜が植物プランクトンを餌料とした場合より脆弱であり、同化効率の測定に必要となる糞粒の回収が困難になることが明らかとなった。 課題3については、R5年度前半に予定していた部分を前倒しで実施できた。結果、スギ花粉のみを与えた場合は、卵が形成されないこと、一方、スギ花粉と植物プランクトンを混合餌料とした場合は、植物プランクトンのみを与えた場合と比較して孵化率が高まることなどが明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
課題1については、まず採取した試料の分析(顕微鏡による密度計測など)を急ぎ、年内に完了させる予定である。また、今年実施できなかった花粉飛散開始時期から飛散量最大時期までの期間に現場調査を実施し、また、セディメントトラップによるスギ花粉の沈降流束測定調査を来年3月から4月にかけて実施することで、大気からの粒状有機炭素供給に対するスギ花粉の寄与率を明らかにすることを目指す。課題2については、R3年度に実行できなかった複数濃度段階のスギ花粉懸濁液を用いた摂食実験を行い、スギ花粉濃度と摂食速度の関係を明らかにする。また、同化効率の測定については、排出された糞粒が脆弱であるために回収困難であったことから、分析に必要な糞の量を回収するための工夫を急ぐ。そのため、R4年度は初めに小型糞粒の回収効率を高めるための方法を検討し、その上で後半に、シオダマリミジンコのスギ花粉同化効率を明らかにしていく予定である 。 課題3については、現場海域におけるスギ花粉の影響評価を目的として、スギ花粉と植物プランクトンの餌料混合比を変えた場合の繁殖に関する評価実験を追加で行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
R3年度に摂食実験の一部と同化効率測定が実施できなかったことで、実験器具・機器の購入を次年度に延期したこと、また、現場調査の一部が実施できなかったことで傭船回数が減少したことに加え、試料分析の外注を次年度以降に先延ばしをしたことで当該助成金が生じた。翌年度(R4年度)は前年度から繰り越した分と合わせた額内で、物品費として、摂食実験を遂行する際に必要となる実験器具、機器、試薬類を購入すること、その他の費目として、現地調査の傭船代と外注による試料分析(動物プランクトン組成分析と栄養塩濃度分析)を実施する予定である。また、R4年度は旅費として関連学会での研究成果発表に係る支出と、実験準備と後片付けの補助として学生アルバイト料の支出を計画している。
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