研究課題/領域番号 |
21K05735
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研究機関 | 公益財団法人目黒寄生虫館 |
研究代表者 |
小川 和夫 公益財団法人目黒寄生虫館, その他部局等, 名誉館長 (20092174)
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研究分担者 |
白樫 正 近畿大学, 水産研究所, 准教授 (70565936)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 代理宿主 / フィロメトロイデス / 生活環 |
研究実績の概要 |
シオダマリミジンコを代理宿主としてブリ筋肉線虫Philometroides seriolaeのふ化幼生(第1期幼生)を摂食させる実験系を昨年度に確立した。この実験系を使って、ふ化幼生をミジンコに高率に寄生させた。その23~27日後、感染ミジンコ各5個体を無感染0歳人工種苗ブリ29尾に強制投与した。投与翌日に15尾、11か月後に7尾、16か月後に7尾の供試魚を解剖した。その結果、投与翌日の供試魚の体腔洗浄液より未熟虫1虫、11か月後に2尾の体側筋より各1虫の本虫成虫を得た。16か月後には虫体は回収できなかった。この結果、ミジンコ血体腔内の本虫は供試魚の消化管内でミジンコから脱出し、消化管から体腔内に移動することが示唆された。また、その後の経路は不明ながら、交尾後に体側筋に移動することが明らかになった。この結果は、海産魚寄生のフィロメトラ科線虫の孵化幼生から成虫までを実験的に完結させた初報告である。得られた成虫の子宮内にはふ化幼生ではなく、発育途中の卵のみが見られたことから、本虫の生活環の完結には1年以上を要すると想定された。また、通常の魚病検査の過程でブリの鰾内から体長約25 cmの成熟雌虫を見出した。鰾寄生が迷入なのか、体側筋に移行する過程なのか、特定できなかったが、体側筋以外の部位から本虫が回収されたのは初めての事例で、今後、終宿主体内での本虫の移動、成熟過程を明らかにするために、鰾も検査する必要があると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
初年度はシオダマリミジンコを本来の中間宿主に代わる代理宿主としてブリ筋肉線虫のふ化幼生を感染させる実験系を確立した。昨年度は感染させたシオダマリミジンコを無感染ブリに投与して、成虫の回収に成功し、ブリ筋肉線虫の生活環を実験的に完結させた。一部の成果については学会発表し、論文として投稿した。論文はすでに受理され、目下印刷中である。以上のことから、きわめて順調に研究が進捗していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度は感染シオダマリミジンコのブリへの感染実験に集中したため、予定された研究の一部を実施できなかった。すなわち、本虫のシオダマリミジンコ内の発育を記載する。これによって本虫のふ化幼生(1期幼生)がシオダマリミジンコ血体腔内で2期幼生からブリへの感染ステージである3期幼生までの発育速度が求められる。また、自然感染ブリから得た本虫の雄虫や鰾から回収された雌成虫の記載も進める。本虫はPhilometroides属の模式種であるので、未記載であった雄虫の記載は寄生虫学的に価値が高い。自然感染したブリまたはヒラマサを入手し、終宿主における寄生の季節的推移を調査する。その過程で新鮮な成虫が入手できれば、人為感染させたシオダマリミジンコを無感染ブリに投与し、体腔内に出た本虫幼虫がどのような経路を取って筋肉に移行するか追跡したい。また、他のフィロメトラ類からもふ化幼生を入手して、シオダマリミジンコに投与する感染実験を実施する予定であったが、材料が手に入らなかった。代理宿主を利用したブリ筋肉線虫の感染実験系が本虫以外の線虫類にも適用できるか検証したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
ブリ筋肉線虫以外のフィロメトラ類からもふ化幼生を入手して、シオダマリミジンコに投与する感染実験を実施する予定であったが、材料が手に入らず、そのために予定していた魚の購入費や旅費を消化できかった。代理宿主を利用したブリ筋肉線虫の感染実験系が本虫以外の線虫類にも適用できるか検証することは重要な研究課題なので、そのための費用を次年度に回したい。
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