本研究では、高水温などの環境要因により雄化しない完全な全雌生産を可能とするヒラメ系統の作出を目的としている。 令和3~4年度は、F0世代から高効率にノックアウト(KO)変異体を作出可能なCRISPR/Cas9システムを用いて、全雌化が期待される系統としてヒラメの性決定遺伝子であるamhの受容体遺伝子(amhr2)のKO変異体ヒラメ(amhr2 KOヒラメ)の作出と解析を主に行った。amhr2 KOヒラメの遺伝的雄(XY)と雌(XX)はどちらも通常の卵巣を持つ雌であったことから、amhr2 KOヒラメは全雌化することが示された。また、エストロゲン合成阻害剤であるファドロゾールを性分化時期(孵化後60日~100日)に投与したところ、amhr2 KOヒラメは雌化せずに通常の精巣を持つ雄であった。これらの解析結果等から、amh/amhr2シグナルはエストロゲン合成を抑制するシグナルであり、amhr2 KOヒラメはエストロゲン合成が抑制されないことから全雌化すると考えられた。 最終年度である令和5年度は、作出したamhr2 KOヒラメが高水温により雄化しないことを確認する試験を主に行った。ヒラメは性分化時期に通常水温(18℃)と比較して高水温となる27℃で飼育することにより、ほぼ100%のXXが雄へと性転換する。そこで、amhr2 KOヒラメを性分化時期に高水温で飼育する雄化誘導試験を行った。その結果、通常のヒラメを27℃で飼育した対照区ではXXが全て雄化したのに対して、amhr2 KOヒラメを27℃飼育した試験区では全ての個体が通常の卵巣を持つ雌だった。このことから、amhr2 KOヒラメは高水温により雄化しないことが確認された。以上の研究結果から、amhr2 KOヒラメは全雌であり、高水温などの環境要因により雄化しない完全な全雌生産を可能にする系統になり得ることが示された。
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