研究課題/領域番号 |
21K05742
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研究機関 | 滋賀県琵琶湖環境科学研究センター |
研究代表者 |
永田 貴丸 滋賀県琵琶湖環境科学研究センター, 総合解析部門, 主任研究員 (50454624)
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研究分担者 |
酒井 陽一郎 滋賀県琵琶湖環境科学研究センター, 総合解析部門, 研究員 (90772335)
岡本 高弘 滋賀県琵琶湖環境科学研究センター, 環境監視部門, 専門員 (70508473)
坂本 正樹 富山県立大学, 工学部, 准教授 (20580070)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ミジンコ / 摂餌機能 / 餌環境 / 生産量 / 琵琶湖 |
研究実績の概要 |
摂餌器官や摂食速度の応答で摂餌を効率化させることにより、カブトミジンコは、餌の藻類量が減少傾向にある近年の琵琶湖においても、過去と同水準の生産量を維持している可能性がある。その可能性を検証するため、1990年~1994年のプランクトン試料を用いて、カブトミジンコの抱卵数(生産量)を分析した。そして、その結果を近年の2015年~2021年のものと比較した。1990年~1994年のカブトミジンコの抱卵数は、2015年~2021年と比べて、少ない傾向にあった。この結果から、藻類量が低下した近年でも、カブトミジンコは、1990年代以上の水準の生産量を維持できている可能性が示された。 近年の琵琶湖では、藻類量が低下しただけでなく、藻類の組成も変化しており(ミジンコが食べにくい大型藻類の増加)、魚へ至る食物網の構造が変化している可能性がある。そこで、琵琶湖の主要魚種アユ(成魚)、動物プランクトン(カブトミジンコを含む主な4種)、藻類等のセストンの炭素・窒素安定同位体比を分析し、その結果から、アユの餌選択性を確認した。餌選択性を評価した結果、アユは、カブトミジンコ等のミジンコを選択的に捕食していた。この結果から、アユへ至る食物網の構造は、過去からほとんど変わっていないことが示唆された。 カブトミジンコは、餌の藻類量が低下すると、摂餌器官の濾過スクリーン面積を拡大させる。濾過スクリーン面積の拡大は、摂餌を効率化させ、生産量の維持に貢献すると予想される。そこで、異なる藻類量で飼育した際のカブトミジンコの濾過スクリーン面積と、生産量との関係を室内実験で調べた。実験の結果から、低い藻類量で飼育したカブトミジンコは、濾過スクリーン面積が拡大し、その生産量は、高い藻類量で飼育した個体と同程度であった。この結果は、濾過スクリーン面積の拡大が、生産量の維持に貢献することを示す世界的にも新しい成果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
滋賀県琵琶湖環境科学研究センターは、毎月の野外調査で琵琶湖のカブトミジンコを採取し、現在(2021年)の抱卵数(生産量)を分析した。その調査時には、カブトミジンコの餌となる現状の藻類等の量や質(栄養塩含有量)も評価した。また、過去1990年~1994年の生産量を、滋賀県水産試験場が保存している試料で分析した。一方、カブトミジンコが、琵琶湖の主要な在来魚種であるアユの餌になっていることを、炭素・窒素安定同位体比での食物網構造の解析によって確認した。これらは、令和3年度の研究計画通りに実施され、順調に成果が出ている。 富山県立大学は、滋賀県琵琶湖環境科学研究センターが採取した調査試料から、カブトミジンコの摂餌器官である濾過スクリーン面積を分析した。一方、室内実験により、餌の藻類量に対するカブトミジンコの機能的応答(濾過スクリーン面積の拡大)の発現性を調べるとともに、生産量との関係を解析した。これらは、令和3年度の研究計画通りに実施され、順調に成果が出ている。 以上のことから、本研究の現在までの進捗状況を「(2)おおむね順調に進展している」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度と5年度においても、野外調査や実験等を計画的に行い、それらの試料を分析することで研究目標の達成に努める。具体的には、滋賀県琵琶湖環境科学研究センターは、野外調査でカブトミジンコの現在の抱卵数を調べるとともに、滋賀県水産試験場が保存している過去のプランクトン試料を用いて、過去の抱卵数を継続分析する。それらの結果から、藻類量の低下や藻類組成の変化が生じた現在の琵琶湖でも、カブトミジンコの抱卵数が減少していないことを証明する。一方、野外調査等で藻類、動物プランクトン、アユ等の魚類を採取し、それらの炭素・窒素安定同位体比から、藻類量の低下や藻類組成の変化が生じた近年においても、カブトミジンコが、琵琶湖の魚類の主要な餌資源になっていることを確認する。 富山県立大学は、滋賀県琵琶湖環境科学研究センターが採取した試料を用いて、琵琶湖のカブトミジンコの摂餌器官である濾過スクリーン面積を継続分析する。そして、琵琶湖のカブトミジンコが餌の藻類量や質(栄養塩含有量)に応じて、濾過スクリーン面積を拡大させていることを確認する。藻類量や質データは、滋賀県琵琶湖環境科学研究センターが行っている本研究や県のモニタリングデータを用いる。一方、室内実験で、餌質に対するカブトミジンコの機能的応答(濾過スクリーン面積の拡大)の発現性を調べるとともに、生産量との関係を解析する。ここでは、餌質として、藻類のP含有量に着目する。 最終的に、上記の全ての調査・実験データを使い、どこまで貧栄養化が進んでも、カブトミジンコは現存量の維持が可能なのかを、滋賀県琵琶湖環境科学研究センターが主体となって推定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
滋賀県琵琶湖環境科学研究センターによる魚とカブトミジンコの関係解析では、琵琶湖の主要魚種のアユの食性に着目することで、令和3年度は計画通りの成果を出せた。しかし、利用している京都大学生態学研究センターの安定同位体比分析システム(共同利用施設)が、新型コロナウイルス感染症の影響で一時的に利用停止になる可能性を考慮し、分析のために採取する生物の種類数を最低限に抑えた。そのため、次年度使用額が生じた。令和4年度は、次年度使用額でアユ以外の魚種も採取する。そして、それらの炭素・窒素安定同位体比から、カブトミジンコが、琵琶湖の魚類の主要な餌になっていることを確認する。 令和4年度には、富山県立大学による室内実験で、餌量および餌質(藻類のP含有量)に対するカブトミジンコの濾過スクリーン面積や生産量の反応を解析する。通常、藻類のP含有量は培地中のP濃度に依存して変化するが、本研究で使用している藻類種では研究例が無い。そのため、培養実験による試行錯誤が必要になる。また、1種類の藻類ではP含有量を十分に調整できない可能性があり、その場合は複数の藻類種を混合して使用する必要性が生じる。よって、多くの藻類種を培養するための必要経費を含めて、次年度使用額を作った。令和4年度は、令和3年度に引き続き餌量の違いに対するカブトミジンコの濾過スクリーン面積や生産量の反応を解析するとともに、餌質の影響を確かめる。
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