研究課題/領域番号 |
21K05743
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
宗原 弘幸 北海道大学, 北方生物圏フィールド科学センター, 教授 (80212249)
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研究分担者 |
藤本 貴史 北海道大学, 水産科学研究院, 准教授 (10400003)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 半クローン / 染色体不和合 / 交雑 / ゲノム削除 / ホストスイッチ |
研究実績の概要 |
半クローンやクローンは、雌だけを産むため個体群増殖速度が速いが、遺伝的な多様性を作り出せないなどの欠点から系統寿命は短いと考えられてきた。しかし、アイナメ属半クローン雑種を用いた研究から、一世代で父親ゲノムを「置換」できる半クローンの特性により、母種の雄と交配することで組換え可能な子を作り出せることがわかった。本研究では、アイナメ属の系統進化の過程で、ホスト種を換えることによって半クローンと組換え世代を繰り返し、系統寿命を伸ばしてきたことを実証する。さらに半クローン配偶子の形成過程を細胞学的に解明する。本年度は以下のことを実施した。 1. 父種ゲノムの削除機構の細胞学的観察 父種ゲノムが排除される仕組みを明らかにするため、半クローンと純粋親種の卵原細胞から卵母細胞になるまでのゲノム動態を共焦点レーザー顕微鏡で観察した。その結果、発生初期の段階で半クローンでは父親ゲノムがヘテロクロマチン化(不活性化)され、減数分裂前に発現が抑制され、不活性化された状態で卵黄蓄積に進むことが示唆され、ゲノムの選択的抑制が半クローンに関わっていると考えられた。 2. 半クローン遺伝子のホストスイッチを経由した永続性の実証 スジアイナメゲノムの半クローン雑種には、アイナメを宿主にするアイナメ系とクジメを宿主にするクジメ系が北海道南部とロシア沿海州で見つかっている。スジアイナメは北太平洋東岸で起源し極東まで分布を広げた。その過程で近縁種のゲノムを宿主にして乗り越えて極東にたどり着いたと考えられる。これを『ホストスイッチ仮定』とよんでいる。これを実証するために、もっとも寒冷域にまで分布するエゾアイナメ雄を入手し、半クローンの卵を人工受精し、孵化した雑種を生育した。本年度までに一部の個体が成熟し、卵が得られたが、状態が悪く孵化に至らなかった。次年度はこの雑種が半クローンかどうかを人工授精により確かめる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、細胞学的な観点と進化生物学的な観点でアイナメ属半クローンの成り立ちを明らかにすることを目的として、以下の3つのことを進める。①半クローンでは卵形成までに父親ゲノム削除することがわかっている。そこで父種ゲノム削除過程を細胞学的観察するための卵原細胞から卵黄蓄積をへて減数分裂までの卵形成過程を純粋種と半クローンで比較し、父種ゲノムの削除過程を観察する。本年度に行った研究から卵原細胞期までに父種ゲノムがヘテロクロマチンとなって不活性化される過程を観察できた。今後は、ヘテロクロマチンが卵細胞内から濾胞細胞に排出されて削除されるのか核移動期を経て第二減数分裂が再開される最終成熟まで細胞内に残るのかなど、卵原細胞期以後の挙動を明らかにする必要がある。②半クローンが地史的スケールにおいて北太平洋を渡る際に、途中の異なる環境下でそれぞれの環境に適した同属種をホストにしてきたことと考えた。この仮説を実証するためには、現存するさまざまな種の精子で半クローン卵を受精して確かめる必要があった。そこで北海道北部以北に生息するエゾアイナメを捕獲し実験室で飼育した。成熟後に実験室で飼育している半クローン卵と人工授精させて稚魚を得た。当初は全く受精しないことも考えられたが、成功し、稚魚の育成にも成功した。成熟には2年要するが1年で成熟した一部の個体を用いた人工授精は卵質が不良で受精に至らなかったが、研究材料が用意できた。③野外で半クローンを確認するには、成熟させ受精卵を得ないと識別できない。そのため多くの個体が必要になる。そこで半クローン遺伝子を検出するマーカーを作出を試みた。 ①については研究協力者の藤本貴文先生の指導のもと順調に進んだ、②については成育に成功し見通しがたった、③については未達だったが、①について進展があったこと、②について目処が立てられたことで「おおむね順調」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、ゲノム削除の細胞学的な観察については、卵原細胞期観察結果をふまえて卵成熟期までの観察を実施する。また、母種と父種のゲノムを識別するための開発も進め、培養による最終成熟期のゲノムの挙動を蛍光観察できる手技を確立を目指す。 エゾアイナメの精子とクジメ系半クローン雑種卵で受精した稚魚については、マイクロサテライト分析での両親のゲノムの体細胞への遺伝の確認と、成熟した一部の個体の性別判別も行なった。その結果、再細胞は雑種であること、成熟個体は全て雌であることを確認した。ここまではアイナメ属半クローン雑種の特徴を示す。今年度は成熟卵に含まれているゲノムが母種だけで父種が途中で排除されたかを人工授精によって確かめることと、現在およそ100個体が生存しているが、これらの性判別を実施する。これまでの(エゾアイナメ以外であるが)純粋種間の交雑では低い割合であるが、半クローンと異なり雄が出現し、その雄は正常な精子を作れず多核性であった。本研究で作出した雑種の中から雄が出現するようなら人工授精で機能的な精子を生産するか、さらにDNA量が種間で異なることがわかっているので、それをマーカーにゲノムの混合状態を推定する。 以上の研究とそれまでに明らかになった成果から、アイナメ属半クローンゲノムの永続性(究極要因)とゲノム削除機構(至近要因)について総括する。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末の端数計算により3,043円の残が生じた。これを次年度に繰り越したい。
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