淡水魚類を介した底生微細藻類の河川内分散の可能性を検証するため、本研究では魚類の糞中に含まれる増殖能力を持った底生藻類の有無および魚類の河川内分布に影響を及ぼす環境要因について調査した。2023年度は,生活史の中で河川を遡上する両側魚類(淡水型)のうち、藻食魚アユおよび水生昆虫食のカジカ中卵型の糞中に含まれる底生微細藻類を観察した。その結果、長崎県戸根川で採捕したアユ(10個体)を21~83分間静置して排泄させた糞中に、珪藻類,鞭毛藻類および緑藻類の生細胞を確認した。特に,珪藻類および緑藻類の生細胞数が多く含まれ,それぞれ1.3万~82.4万細胞および0~14.4万細胞の範囲で変動した。また、茨城県那珂川支流藤井川で採捕したカジカ中卵型(5個体)を一昼夜静置して排泄させた糞中にも、わずかながらラン藻類,珪藻類(0~60細胞)および緑藻類の生細胞を確認した。滅菌河川水を用いて糞を粗培養した結果,アユおよびカジカ中卵型の糞中に含まれていた珪藻類(Melosira varians等)および緑藻類(Cosmarium spp.、Closterium spp. Senedesmus spp.等)が増殖能力を保持していることを確認した。特に、アユの糞中には、微細藻類の他に、原生動物、ユスリカおよびカゲロウの幼虫等の生存も観察された。さらに、那珂川の2支川で魚類群集組成を調査した結果、両支川ともカジカ大卵型が優占(採捕した個体数の62~90 %)し、その個体数密度の変動は水生昆虫の現存量の変動によって説明された。底生魚類のカジカにとって食物である水生昆虫の現存量が河川内分布に影響を及ぼす一要因であることが分かった。
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