ナマコやウニは水産上、重要な生物種であるが、天然資源は急激な減少傾向にある。ナマコやウニの資源量の回復と安定した生産を実現するためには、効率的かつ計画的に種苗を供給することが不可欠である。そのため、親個体の性成熟を人為的に誘起する技術の確立が課題となっている。我々は,棘皮動物であるイトマキヒトデ組織に存在するD-アスパラギン酸やその合成酵素であるアスパラギン酸ラセマーゼが性成熟に関与している可能性を見出し、さらにD-アスパラギン酸投与が生殖腺指数の上昇を誘起することを発見した。そこで本研究では、D-アスパラギン酸によるイトマキヒトデの性成熟メカニズムを明らかにするとともに,それを同じ棘皮動物であるナマコやウニに応用展開することで新しい人工催熟法を確立することを目指した。 ナマコへのD-アスパラギン酸投与の効果を確認するために、ナマコの種類やサイズ、D-アスパラギン酸濃度、投与回数、投与期間などを変えて確認したが、生殖腺指数が有意に変化するような投与条件が見出せなかった。そのため、イトマキヒトデとナマコの差異を明確にするために、まずはイトマキヒトデアスパラギン酸ラセマーゼcDNAの全塩基配列を決定した。次いで大腸菌によりリコンビナントタンパク質を発現し、アフィニティークロマトグラフィーなどを用いて精製した後に活性測定を行なったところ、高いアスパラギン酸ラセマーゼ活性を示した。またイトマキヒトデにはD-アスパラギン酸の分解に関与するD-アスパラギン酸オキシダーゼの複数種類の遺伝子が存在する可能性が明らかになった。さらにリアルタイムPCRによる両酵素遺伝子の発現定量系を最適化した。
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