研究課題/領域番号 |
21K05760
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研究機関 | 国立研究開発法人水産研究・教育機構 |
研究代表者 |
長谷川 功 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 水産資源研究所(札幌), 主任研究員 (00603325)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | さけます / 人工ふ化放流事業 / 種間競争 / 食うー食われるの関係 |
研究実績の概要 |
近年は、さけますの人工ふ化放流事業に対しても生物多様性への影響に配慮することが求められている。そのことから、放流種苗の影響評価は多く行われてきたが、遺伝的多様性など放流種苗と同種の種内多様性への影響を調べた事例に研究は偏り、放流種苗の生物群集への影響は未解明な点が多い。そこで、演者は放流種苗が起こすトロフィックカスケード効果に着目し、餌となる底生生物相と魚類の食性調査を行い、放流種苗によるトップダウン効果を明らかにした。次いで、本研究ではボトムアップ効果について検証した。 今年度は、2019年5月から9月にかけて北海道南西部の尻別川の9地点で採取したサンプルの分析を主に行った。これらのうち、6地点ではサクラマス稚魚の放流が行われ(放流区)、残る3地点は対照区(非放流区)とした。いずれの地点にも魚食性を示すイワナが生息する。放流は5月下旬に行われ、放流前後に各1回と4回、底生生物とイワナの胃内容物をサンプリングした。事前に個体識別を施したイワナは、再捕ごとに体サイズ(尾叉長)を記録し、成長率(SGR)の評価に供した。 底生生物相の経時変化には放流区と非放流区間で違いは見られなかった。のべ436個体のイワナの胃内容物を調べたところ、放流直後はサクラマス稚魚を多く捕食し、採餌量も放流区の方が非放流区よりも多かった。放流直後の5月下旬と6月中旬の調査で繰り返し捕れたイワナの成長を比較すると放流区(10個体)の方が非放流区(13個体)よりも高かった。以上より、サクラマス稚魚が餌となることでイワナの成長を促進した、すなわち放流種苗によるボトムアップ効果が生じたと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナウイルス感染拡大による行動制限のため、当初予定した調査地探しは十分にはできなかったが、既存のサンプルやデータを分析することで、当初の計画の代替となる成果が得られたため。
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今後の研究の推進方策 |
放流種苗が捕食者の成長を促進したかについてはサンプル数が少ないため、検討の余地が多い。そのため、イワナ-サクラマス稚魚の組み合わせだけでなく他魚種についても同様の検討を行う。また、野生魚と放流魚の別を問わず、魚類の成長に影響し得る生物的、非生物的環境要因の抽出に務める。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウイルス感染拡大による行動制限のため、旅費を予定通り使用できなかった。その分は、現在執筆中のイワナによる放流サクラマス稚魚の捕食に関する論文などのオープンアクセス化費用に充てる。
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