研究課題
在来サケ科魚類および日本に定着した外来サケ科魚類各種を対象として、環境DNA(eDNA)データを用いた魚類の空間分布の把握および資源量推定に必要な基礎データ「生物から環境中へのeDNA放出量、eDNA分解速度」を室内実験により取得するとともに、モデル水面に設定した湖沼・河川において多地点採水調査、環境計測をおこない、eDNA分析がサケ科魚類各種の資源量推定に適用可能かどうかを検討する。本年度は以下の室内実験、野外調査を実施した。①eDNAの挙動を調べる室内実験を行い、過年度に実施した実験と加えて合計7魚種(イワナ、ヒメマス、ニジマス、サクラマス、ブラウントラウト、レイクトラウト、カワマス)についてデータを蓄積した。300L円形水槽に1個体を移してeDNA濃度の時間変化を調べた。その結果、水槽内のeDNA濃度(実験15日後)は大型個体ほど高くなる傾向が認められた。また、この「体サイズーeDNA濃度」の関係は魚種間で有意な差は認められなかった。本実験により得られた関係式は、今後、自然河川や湖沼での資源量推定に活用されるものと期待される。②イワナ、カワマス、ブラウントラウトの3種が混生する長野県上高地を流れる中川(梓川水系、流程約500m)において、50m区間ごとの生息密度(g/m3)と流下するeDNA(copies/L)との対応関係を調べた。その結果、eDNA濃度は直近上流のバイオマスと必ずしも正の相関がなく、むしろその上流区間全体のバイオマスとより高い正の相関を示すことが明らかとなった。これは渓流のような低水温下では浮遊DNA断片の分解速度が遅いことが影響していると推測され、eDNA分析を渓流域でのバイオマス推定手法として適用する場合に、想定する空間スケールの調整が必要と考えられた。③昨年度に引き続き、栃木県中禅寺湖に設定した調査定点においてeDNA採水調査を実施した。
2: おおむね順調に進展している
サケ科魚類各種を対象とした室内実験、モデル河川・湖沼での採水調査、遺伝子分析は計画に従い実施された。遺伝子分析未実施のサンプルが少数発生したが、次年度以降に分析できる見込みである。
モデル水面に設定している中禅寺湖において、今年度と同様の採水調査を継続し、各魚種について環境DNA濃度の空間分布を調べるとともに、その時間的推移を調べる。
本年度の遺伝子実験はほぼ計画通りに進んだが、予算を完全に使いきることができず若干の未使用額が生じた。これらは、次年度の遺伝子試薬等の購入にあてる。
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