国内養殖業に甚大な被害をもたらしている代表的有害プランクトン(シャットネラ属及びカレニア・ミキモトイ)は、赤潮の発生海域をダイナミックに変化させている。本研究では、代表的有害プランクトンとそれらの赤潮被害が集中する西日本に焦点を当て、過去約50年間に及ぶ赤潮・環境データの解析から赤潮発生海域の時空間変動の実態を把握するとともに、統計モデルによりその変動要因を特定することを目的とする。水産庁が毎年刊行している「瀬戸内海の赤潮」及び「九州海域の赤潮」から、シャットネラ属及びカレニア・ミキモトイの赤潮に関するデータを抽出・整理し、30年間(1991-2020年)に及ぶ長期データセットを作成した。報告機関(府県)による赤潮の基準の相違によるデータへの影響に対応するため、新たなデータフィルター手法を開発して用いると同時に、3つの異なる空間スケール(西日本全域、瀬戸内海・九州海域、湾灘)で解析を実施した。最終年度である本年度は、両有害藻類のフェノロジーの変化(シャットネラ属赤潮の最終発生日の遅延化、カレニア・ミキモトイの赤潮発生時期の早期化)をはじめ、国内における赤潮発生動態の変化を、統計的手法を用いて複数の空間スケールで見出すことができた。また、各データ項目に関してレジームシフトの存在を明らかにすることにより、地球規模の気候の変化との関係性が疑われるまでに至った。両有害藻類の赤潮は時空間変動の特徴が異なるものの、有害赤潮の傾向について科学的に解明した点は、広域から湾灘スケールの赤潮による漁業被害への対策を検討する上で重要性が高いと考える。
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