研究課題/領域番号 |
21K05765
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
佐伯 宏樹 北海道大学, 水産科学研究院, 教授 (90250505)
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研究分担者 |
趙 佳賢 北海道大学, 水産科学研究院, 助教 (80829052)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 魚肉水溶性タンパク質 / 糖化 / 抗炎症 / メイラード反応 |
研究実績の概要 |
2021年度は,抗炎症機能の詳細な検証・メカニズム解析と,機能タンパク質の特定を計画していたが,利用予定していた分析装置の入手の遅れから,メカニズム解析は追試験のレベルに留まった。そのため,2021ー22年に予定していた水溶性タンパク質画分(WSP)の組成分析を先行実施するとともに,凍結筋肉や工場廃水からWSPを抽出し,抗炎症機能の差異を検討し,WSPのもつ抗炎症機能の安定性を検証した。さらに2022年度の動物実験を踏まえて,メイラード反応を用いた糖鎖導入が,その抗炎症作用におよぼす影響を調査した。 まず,スケトウダラ筋肉の水抽出画分から,等電点沈殿を主体とした生化学的手法によってWSPを調製し,これを電気泳動分画,免疫染色,TOF-MS分析に供して,含有成分の特定をおこなったところ,(1)WSPは解糖系酵素群,ミオシン軽鎖,およびパルブアルブミンから成ることを確認した。続いて(2)スケトウダラの生鮮筋肉,凍結筋肉,さらに冷凍すりみ工場の工場廃液のいずれを原料としても,各WSPはLPS刺激したマウスマクロファージの炎症性サイトカイン産生を抑制した。さらに(3)糖鎖導入はWSPの抗炎症機能を増強することを明らかにできた。 (1)と(2)の結果は,WSPの構成タンパク質との抗炎症機能が原材料の相違によらず維持されていることを示す結果であり,今後,本研究の知見を産業的に展開する上で重要な知見である。また(3)はメイラード反応による糖鎖導入が抗炎症機能を強く増強させる可能性を示した結果であり,2022年度の動物実験計画に反映させることで,本研究の意義を大いに高められる可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要で述べたように,2021年度に予定していたメカニズム解析に替えて,水溶性タンパク質画分(WSP)の組成分析を先行実施するとともに,凍結筋肉や工場廃水からWSPを抽出し,抗炎症機能の安定性を検証した。このように検討項目の実施順序を変更したが,計画全体の進捗状況に大きな遅れはない。そして,2022年度以降の研究予定にも大幅な変更はないので,3年間の研究目標にも影響しない。よって本研究は,現時点ではおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度には,2021年度に確認した糖鎖導入WSPの抗炎症機能をより詳しく検証するとともに,当初の研究計画に基づき, WSPの非感染性疾患に対する予防(寛解)作用を動物実験によって調べる。また,2021年度に分画したWSP中の含有タンパク質の抗炎症作用を検証するとともに,細胞実験によって抗炎症機能の発現メカニズムの検証に着手する。これらはいずれも予定した検討内容であり,研究計画の大幅な変更は予定していない。 動物実験では実験飼料に添加するWSPの大量調製が必要である。しかし,WSP原料として当初予定していた冷凍すり身工場からの魚肉洗浄廃液の供給が,新型コロナウイルスの感染状況が好転しないなどの理由によって,実施できないことが明らかとなった。このため,動物実験に利用するWSPの調製を,数十kgのスケトウダラ・フィレから調製する必要が生じ,当初計画に予定のない労力と経費の支弁が課題となった。これについては,昨年度の残経費(次年度使用額)と自己資金で充当する。さらにメカニズム解析の内容を一部縮小するなどの対応によって,本計画の中心課題の一つである動物実験による機能検証を最優先する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度に実施する動物実験において,供試試料の原材料経費が新たに必要となった。そのため,次年度使用額のほぼ全てを,この材料の購入に充てる。
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