研究課題/領域番号 |
21K05766
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研究機関 | 帯広畜産大学 |
研究代表者 |
楠本 晃子 帯広畜産大学, 動物・食品検査診断センター, 助教 (60535326)
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研究分担者 |
石丸 克也 近畿大学, 水産研究所, 講師 (00330241)
中井 敏博 広島大学, 統合生命科学研究科(生), 名誉教授 (60164117)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ファージ療法 / 魚病 / 滑走細菌症 / 水産増養殖 |
研究実績の概要 |
滑走細菌症は海水魚の細菌感染症で、国内外の増養殖場で問題となっている魚病の1つである。日本ではマダイやヒラメの稚魚で滑走細菌症の被害が大きい。しかし、滑走細菌症に対する水産用ワクチンはなく、治療に用いることの出来る水産用医薬品は事実上ない。近年、耐性菌の出現や拡散の懸念から、抗菌薬の養殖魚への使用は厳しく制限され、抗菌薬に頼らない予防・治療法の確立が求められている。本研究では、抗菌薬に頼らない滑走細菌症の治療法として、ファージ療法に着目した。 ファージ療法はバクテリオファージ(以下ファージ)を用いた細菌感染症の治療法である。ファージは宿主細菌に特異的に感染し、殺菌する。ファージの宿主域は一般的に極めて狭く、宿主以外の細菌には感染せず、影響を与えないため、ファージ療法では、抗菌薬の使用で問題となる常在菌や環境細菌への影響もなく、薬剤耐性菌出現のリスクがない。また、多剤耐性を獲得した菌に対してもファージ療法は有効である。ファージ療法は近年、増加している多剤耐性菌対策の切り札として、医学、農学、獣医学の分野で再注目され、実用化を目指した研究が盛んに行われている。 本研究は滑走細菌症のファージ療法の実用化を目指す。本年度では、実験感染魚を用いた効果的なファージ投与法の検討、および、ファージライブラリー構築のための新規ファージ分離を行った。ファージ投与法の検討では、実験感染させたマダイ稚魚を用いたファージの浸漬投与を行った。ファージ療法の有効性の詳細な評価法を確立した。新規ファージ分離では、滑走細菌症が発生したヒラメ稚魚の生簀の海水を用いて、ファージのプラークを分離した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実験感染魚を用いた効果的なファージ投与法の検討、および、ファージライブラリー構築のための新規ファージ分離を行った。 これまでの予備実験で、滑走細菌症を発症した稚魚に対して、ファージを投与することで生存率の改善が見られたことから、ファージ療法の有効性を確認していた。本研究では、効果的な投与法を探索するために、より詳細に有効性を評価すべきと考えた。したがって、有効性の評価の指標として、稚魚の生存率に加え、体表患部の回復状況、体表の菌数の変化、体表のファージ量の変化について調べた。マダイ稚魚を用いて人為的に滑走細菌を感染させ、滑走細菌症発症を確認後、ファージの浸漬投与を行った。はじめに、感染条件、および、各評価指標の測定条件を検討し、条件を決定した。実験期間虫に発生した赤潮の影響でファージ投与の詳細な評価までは至らなかったが、本年度はファージ療法の有効性の評価法を確立することができた。 ファージ療法の確立にはファージライブラリーの充実は不可欠である。ファージ療法の運用では、宿主域が異なる複数のファージをあらかじめ調整したファージカクテルを使用する方法と、標的の細菌に応じてオーダーメードでファージカクテルを調整する方法がある。どちらの運用法でも宿主域が異なる多種多様なファージが必要である。これまでに滑走細菌症が発生したマダイ稚魚の生簀の海水からミオウイルス科ファージを分離している。本研究では、滑走細菌症が発生したヒラメ稚魚の生簀の海水からファージの分離を行った。また、同時に滑走細菌を分離した。二重寒天法により、ファージのプラークを回収することができた。
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今後の研究の推進方策 |
ファージ投与法の検討では、これまでの浸漬投与に加え、経口投与も検討する予定である。経口投与は餌にファージ液を混ぜて投与するため、実用化を考えた場合、投与の手間が最も少なく、簡便である。 新規ファージの分離については、本年度に分離したファージのプラークからファージの単離を行い、ファージの分類、ファージの宿主域、および、殺菌効率など詳細な解析を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新規ファージ分離に使用する海水のサンプリングのための旅費を計上していたが、サンプリングの準備の段階で、科研費が交付前であったため、他の予算で実施した。そのため、未使用額が生じた。研究代表者が次年度から他大学へ移ったため、研究試料および研究機材の輸送に未使用分を使用する予定である。
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