研究課題/領域番号 |
21K05768
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研究機関 | 東京海洋大学 |
研究代表者 |
岡井 公彦 東京海洋大学, 学術研究院, 准教授 (00596562)
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研究分担者 |
高木 俊幸 東京大学, 大気海洋研究所, 助教 (00814526)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 立体構造解析 / 抗菌ペプチド / サンゴ |
研究実績の概要 |
「海のゆりかご」とも呼ばれるサンゴ礁には全海洋生物の約25%が生息しており、生物多様性の保全上、極めて重要な生態系であるが、近年の海水温上昇は海洋病原細菌の毒性を上昇させ、細菌性白化や組織分解によるサンゴ礁の破壊を引き起こしている。サンゴを含む無脊椎動物には病原細菌から身を守るための自然免疫機構が備えられており、病原細菌を認識後、シグナル伝達を介して抗菌ペプチド(Antimicrobial peptide; AMP)を生産することが知られている。一方、サンゴにおいてはAMPの存在が特定されているものは少なく、免疫機構には不明な点が多い。本研究ではトランスクリプトーム解析で推定されたAcropora digitifera由来AMPの①立体構造解析と②膜作用機序解析を行い、免疫機構の分子メカニズムを明らかにするとともに、抗菌活性を高めたペプチドを創出することを目的としている。 立体構造解析では1種類の抗菌ペプチドAMP-0027を凝集抑制剤として働くグリセロールを添加した条件と添加しない条件で精製した。それぞれの条件で精製したAMP-0027を用いて結晶化スクリーニングを行った結果、グリセロールを添加したAMP-0027では結晶が得られなかったものの、グリセロールを添加していないAMP-0027では一つの条件で微結晶が得られた。 膜作用機序解析ではAMP-0027の細菌に対する作用機序を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。AMP-0027添加により、対象とした枯草菌の細胞サイズは、一般的なサイズ2μmから1μm程度まで収縮していた。したがって、AMP-0027は枯草菌の細胞膜に孔が空け、内容物を流出させて細胞収縮を引き起こす新規の抗菌ペプチドであることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
AMP-0027は当初、沈殿抑制剤として働くグリセロールをバッファーに添加した条件で精製を行い、11 mg/mLまで濃縮して結晶化の1次スクリーニングを行っていたが、結晶を得ることはできなかった。グリセロールを添加していない条件ではAMP-0027を4.4 mg/mLまで濃縮し、4種類のキット(Wizard Classic 1&2、Wizard Classic 3&4、Crystal Screen HT、Index HT)を用いて4℃と20℃で結晶化スクリーニングを検討した結果、20℃の1つの条件で微結晶が確認された。 AMP-0027の細菌に対する作用機序はSEMで観察した。グラム陽性菌の枯草菌をLB培地で前培養し、貧栄養培地で対数増殖期まで本培養して、菌体量を1.0×106 CFU/mlになるように調整した。AMP-0027を終濃度が5μMになるように添加し、枯草菌を1時間処理した。枯草菌を固定・脱水・凍結乾燥した後、白金パラジウムでコーティングし、SEM観察を実施した結果、枯草菌の細胞サイズは2μmであるが、AMP-0027処理後のサンプルは1μm程度まで収縮した細胞が多く確認された。このことから、AMP-0027は枯草菌の細胞膜に孔が空けることで、内容物を流出させて細胞収縮を引き起こしたと考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
立体構造解析ではAMP-0027で得られた結晶化条件を基に沈殿剤、塩、pH条件を変えて二次スクリーニングを行う。2次スクリーニングで最適化された結晶を用いて放射光施設Photon FactoryでX線回折データを取得する。取得したデータは研究室のパソコンで処理し、立体構造を決定する。立体構造決定にはセレノメチオニン(Se-Met)誘導体結晶による異常分散法、もしくはAlphaFold2による予想立体構造から分子置換法を用いる。膜作用機序解析ではAMP-0027で処理した細菌を透過型電子顕微鏡で観察して、細胞膜構造の変化を調べていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
結晶化の1次スクリーニングで結晶を得るまで当初の予定より時間がかかり、2次スクリーニングで使用する試薬を購入しなかったため、次年度使用額が生じた。1次スクリーニングで得られた結晶化条件で使用されている試薬を購入する。
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