水生無脊椎動物では、D-アラニンとD-アスパラギン酸が様々な組織に存在していることが知られているが、クルマエビでは雄の生殖腺においてのみD-グルタミン酸(Glu)が存在していることが明らかとなっている。このD-Gluは、交尾の際に雄から雌へと受け渡される精包に局在していることから、クルマエビの発生過程において重要な役割を担っているものと考えられた。そこで本研究では、クルマエビの産卵直後の受精卵から孵化後の稚エビが性分化し、雄のみがD-Gluを獲得するまでの各成長段階におけるD-Gluの分布を明らかにすることとした。 その結果、精包に含まれるD-Gluは、産卵の際に卵と同時に放出され、受精卵形成に関わっているものと考えられたが、受精卵からはD-Gluは検出されず、孵化後のノウプリウス期、ゾエア期およびミシス期においても検出されなかった。ポストラーバ期においても、稚エビの段階ではD-Gluは検出されなかったが、精巣の形成が認められた体長が80mm程度の個体において、はじめてD-Gluが検出された。したがって、雄の性成熟に伴い、精巣でD-Gluが生合成されていることが明かとなった。さらに、精包の人工摘出が各生殖組織のD-Glu含量に及ぼす影響について検討を行ったところ、いずれの組織においてもD-Glu含量の増加傾向が認められた。特に、精包が存在する貯精嚢においては、7日後にD-Glu含量の著しい増加が認められた。一方、精巣においては、精包の再生にともないL-Glu含量の著しい減少が認められたことから、L-GluがD-Gluの生合成に関与しているものと考えられた。
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