研究課題/領域番号 |
21K05780
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
古屋 康則 岐阜大学, 教育学部, 教授 (30273113)
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研究分担者 |
山家 秀信 東京農業大学, 生物産業学部, 准教授 (40423743)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 性フェロモン / 腎臓 / 営巣繁殖 / 尿 / トミヨ属 / 精子形成 / 誘引 |
研究実績の概要 |
本年度は、トゲウオ科のトミヨ属淡水型(Pungitius sp.1)を材料に、雄の腎臓抽出物中に存在する雌誘引物質の特定を目的とした選択実験を試みた。上流区が2又に分かれたY字水路を用いて、上流区の片方から腎臓破砕液を限外濾過により分画したものを試験液として流した。その結果、分子量3,000以上の分画に雌誘引効果が見られた。一方、分子量3,000以下の分画には雌が忌避する成分が入っている可能性が示唆された。 雌誘引物質と巣材接着成分(スピギン)との関係を明らかにするため、雄が作成した巣(凍結保存したものを解凍して使用)を浸した水を用いた選択実験を試みた。その結果、巣を浸した水の方を選択する傾向が見られたものの、明瞭な誘引効果は示さなかった。以前に予備的に行った凍結していない新鮮な巣を用いた実験では、ある程度の誘引効果が認められていた。このことから、スピギンが雌誘引物質の可能性は否定できず、次年度以降に再度新鮮な巣を用いた実験を実施することとした。 トミヨ属淡水型の雄の腎臓発達と生殖腺発達との関係を調べるために、本種の精子形成過程を調べた結果、本種の精子形成(減数分裂)は初夏の繁殖期を終えた直後から開始し、翌年の繁殖開始の半年前(10月)にはほぼ完了すること、その後の冬の間は形成された精子を維持すること、さらに繁殖期に入ると精小嚢の壁に沿って複数の精子が集塊を形成するといった、特異な精子形成過程を経ることが示された。過去の文献を調べたところ、このような特徴はトゲウオ科魚類に共通して見られるものであることがわかった。また、文献による血中の雄性ホルモン濃度の推移などから、トゲウオ科魚類の精子形成・精子成熟の内分泌制御自体が他の硬骨魚類とは異なる可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度には、研究対象魚種の中の1種、トゲウオ科のトミヨ属淡水型について、繁殖期の雄の腎臓中には排卵雌を誘引する成分が含まれており、その成分は、限外濾過による分画成分を用いた選択実験により、分子量3,000以上の物質であることを示す結果が得られた。このことは、雌誘引物質の実態に近づいた成果と言える。次年度(最終年度)にはさらに分画した成分を用いた選択実験により、誘引成分の同定にまで踏み込みたい。また、雌誘引成分がスピギンであるのか否かについては、明確な結論は得られなかったが、これを検証する上で実験に使用する「巣」の状態が重要であるという、今後の実験で考慮すべきことが示された。 トゲウオ科魚類の腎臓発達と精子形成過程との関係について調べた結果、本研究と過去の文献から今までに注目されてこなかった現象を示すことができた。このことは、本研究の主目的からは外れるが、対象魚種の基本的な特性を理解する上で重要な発見であった。特に、腎臓発達には雄性ホルモンが関与していることは先行研究で示されているものの、精子形成や精子の成熟(運動能の獲得)の内分泌制御が他の硬骨魚類とは異なる可能性が示され、今後新たな研究の課題が発見できた。 一方、予定していたハゼ科魚類(カワヨシノボリ・ヌマチチブ)やカジカ科魚類を用いた実験は実施できなかった。
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今後の研究の推進方策 |
トゲウオ科のトミヨ属淡水型について、腎臓抽出物中の分子量3,000以上の分画をさらにクロマトグラフィー(HPLC)によって細分画した成分を用いた選択実験を行い、雌誘引成分を特定する。また、雄が作った巣の成分についても選択実験を行い、巣作りの際に分泌されるスピギンが雌誘引性を持つのか否かを明らかにする。腎臓抽出物や巣から得られた雌誘引成分について、LC-MSやNMR等によって分析し、誘引成分の物質同定を行う。 ハゼ科魚類のカワヨシノボリについて、営巣している雄から雌を誘引する物質が放出されていることはこれまでの研究により示されている。2023年度には雌誘引成分が腎臓由来の物質であるのか、尿として放出されているか、について選択実験により明らかにして行く。腎臓抽出物中に雌誘引成分が確認された場合には、その成分がどのような物質であるのかについて、電気泳動などによる雌の腎臓抽出物との比較によって検討する。また、営巣している雄が尿をどのようなタイミングで放出しているのについて、尿を可視化することで明らかにして行きたい。 研究の最終年度でもあることから、成果の公表も活発に行う。国内の学会だけでなく、海外の学会でもこれまでの一連の成果を発表する。
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