研究実績の概要 |
本研究では、営巣繁殖する魚では雄が腎臓で雌を巣まで誘引する物質を産生していることを示し、誘引物質の実態を解明することを目的とし、雄が石の下の隙間に営巣し繁殖するカワヨシノボリと、雄が腎臓で産生した接着成分(スピギン)で植物片を固めて巣を作り繁殖するトミヨ属淡水型(以下、トミヨ)を用いて、雌の誘引実験や腎臓抽出物の成分分析を行った。 カワヨシノボリ:上流側が二股に分かれたY字水路を用いて、左右の上流区から種々の刺激液を滴下して、下流区に入れた雌の行動を調べた。雄の腎臓抽出物を刺激液として用いた場合、排卵した雌は誘引されたが、未排卵の雌は誘引されなかった。このことから、繁殖期の雄の腎臓には排卵した雌を誘引する物質が含まれ、営巣中の雄はこの誘引物質を尿を介して放出していると考えられた。繁殖期と非繁殖期の雌雄の腎臓抽出物をSDS-PAGEによって解析したところ、繁殖期の雄の腎臓にのみ含まれている糖タンパク質(分子量74および 33 kDa)が確認され、これらの成分が雌誘引物質として働いていると考えられた。 トミヨ:前年度までの研究により雄の腎臓抽出物中の分子量3,000以上の分画に雌誘引効果が認められており、スピギンそのものが雌誘引物質である可能性が考えられていた。そこで、雄が植物片を固めて作った巣を入れた水槽の水を刺激液として誘引実験を行った。その結果、雌は巣の入った水に誘引された。以上の結果から、スピギンそのものが雌を誘引すると考えられた。雄の腎臓肥大と精子形成に対する雄性ホルモン(11KT )の関わりを明らかにするために、血中の11KT濃度の周年変化を調べた結果、精子形成期(9ー10月)には低値で推移し、腎臓肥大期(3-5月)に高値をとった。このことから、11KTは主に腎臓を刺激してスピギンの産生を促すが、精子形成には直接関わっていないことが示唆された。
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