研究課題/領域番号 |
21K05784
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
菅 向志郎 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(水産), 教授 (60569185)
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研究分担者 |
平坂 勝也 長崎大学, 海洋未来イノベーション機構, 准教授 (70432747)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 仔稚魚 / 脂質飼料 |
研究実績の概要 |
魚類に限らず多くの脊椎動物において、細菌性やウイルス性の疾病に対する抗病性を高めるには、免疫細胞の活性化や増加が効果的である。 近年、糖質を制限し脂質を高摂取するケトジェニックダイエットを哺乳類に適用すると脂質代謝の増大で免疫細胞ガンマ・デルタ型T細胞が増加し、ウイルスや結核菌への感染防御効果を誘因することが報告されている。哺乳類のエネルギー源は糖質→脂質→タンパク質の順に代謝・生産され、2番目の脂質代謝が亢進すると感染防御効果が発揮される。魚類の代謝は餌由来タンパク質→脂質→筋肉タンパク質であり、餌由来タンパク質の制限で脂質代謝が亢進する。養殖現場で赤潮・疾病対策として日常的に行われている餌止めは、脂質代謝亢進に起因する免疫能向上が斃死低減に繋がると考えられている。このことから、低タンパク質・高脂質飼料の給餌は、ヒラメ稚魚の感染防御能の向上に繋がる可能性が高い。今年度は、脂質代謝亢進を目的に高脂質飼料を作製した。この高脂質飼料は、大豆油・サラダ油、ヤシ油を添加した2種類を作製した。これら2種類の高脂質飼料を飼育したヒラメから採血し、ディフクイック法による血液塗抹標本を作製することで血球像の変化を調べた。その結果、全試験区で白血球数は一旦減少した後に増加する傾向がみられた。また、高脂質飼料で飼育したヒラメを麻酔薬および氷海水で深麻酔し安楽死させた後に解剖して、免疫に関わる組織である腸管、腎臓、脾臓に加え、脂質を蓄積する肝臓をホルマリンで固定した。これら臓器の組織学的な変化を調べるため、パラフィン包埋切片を作製・HE染色した後、対照区と比較することで、各臓器の変化を調べた。その結果、腸管においてリンパ球様細胞が対照区では散在的に分布しているのに対し、高脂質飼料を摂餌したヒラメの腸管では上皮細胞層の下部で増加・密集していた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ヒラメを用いた実験では、ヒラメ受精卵をふ化させた仔魚に魚病細菌を取り込ませた動物プランクトンを給餌して飼育した稚魚を用いた実験も行う予定であった。 しかし、コロナ禍による移動制限などにより、受精卵が入手できず、ヒラメ仔魚を用いた飼育実験はできなかった。このため、通常の種苗生産法により飼育したヒラメ幼魚を用いて、低タンパク質・高脂質飼料の給餌よる感染防御能の向上について実験を行った。この低タンパク質・高脂質飼料は、市販の少量の海産魚用配合飼料、賦形剤として動物が資化できない糖質、植物油を混合する割合を変え、給餌する際の海水中での造粒性、崩壊性、浮沈性を検討した。その結果、ヒラメが給餌可能な配合割合を見出すことが出来た。この低タンパク質・高脂質飼料を給餌したヒラメの血液塗沫標本を解析した結果、全試験区で赤血球数は減少、白血球は一度減少した後に増加する傾向を確認した。この結果を、次年度以降、仔魚に魚病細菌を取り込ませた動物プランクトンを給餌して飼育したヒラメ稚魚に適用することが可能である。また、ヒラメ受精卵の入手は、次年度以降もコロナ禍による移動制限などにより困難であることが予想される。これまでの研究で、マングローブキリフィッシュを魚病細菌感染のモデル魚としての可能性を見出しており、ヒラメ受精卵が入手出来ない場合の代替実験を可能とする手法を確立しつつある。予定していた実験が実施出来なかったことから、やや遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
魚病細菌感染のモデル魚としてマングローブキリフィッシュのふ化仔魚を用いた魚病細菌含有動物プランクトンの摂餌実験を行い、抗病性の付与について検討する。 当初の実験計画であるヒラメ受精卵が入手できれば、ヒラメについても同様に実施する。また、受精卵の入手が困難であれば、ヒラメ幼魚を用いた実験も実施する。2021年度に実施した低タンパク質・高脂質飼料を給餌したヒラメ実験の血液塗沫標本などの結果から、感染防御能の向上の可能性が見出された。しかし、血液細胞数および腸管組織の変化は、作製した低タンパク質・高脂質飼料による炎症反応であることも考えられる。また、腎臓組織では、対照区と比較すると異なる組織像が観察されたことから、負の効果も生じていることが予想される。よって、適切な油脂の種類・量を検討し、短期間で効率よく免疫強化の効果のみが出るような低タンパク質・高脂質飼料を作製していく必要がある。マングローブキリフィッシュでの魚病細菌含有動物プランクトンの摂餌実験では、攻撃試験による抗病性付与の有無だけでなく、腸管絨毛組織の変化について組織切片解析を行う。これらの実験から、抗病性の付与と腸管絨毛組織の変化との関係性を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、ヒラメ受精卵をふ化させた仔魚に魚病細菌を取り込ませた動物プランクトンを給餌して飼育した稚魚を用いた実験も行う予定であった。しかし、コロナ禍による移動制限等によりヒラメの受精卵が入手出来なかった。このため、当初実験計画で予定していた飼育実験に使用する試薬類や消耗品の購入額が減少し、使用予定の金額より残額が生じる結果となった。次年度は、これまでにやや遅れている研究計画に従って実験を進めるだけでなく、仔魚を通年入手できるマングローブキリフィシュを魚病細菌感染のモデル魚として用いることで得られる結果を、ヒラメ実験に対してフィードバックすることでより充実した研究内容にする。
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