研究課題/領域番号 |
21K05789
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研究機関 | 関西医科大学 |
研究代表者 |
楠本 邦子 (竹本邦子) 関西医科大学, 医学部, 准教授 (80281509)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | シジミ / 殻皮 / FeのK吸収端XAFS / 共鳴ラマン分光法 / 鉄カテコール錯体 |
研究実績の概要 |
淡水域や汽水域に生息するシジミは,一般に貝殻の色は黒色である思われているが,稀に黄色に輝くシジミがいる。貝殻は,外套膜上皮から分泌される代謝物により形成されるので,貝殻の色と生育環境には強い相関があると推察される。しかし,シジミの貝殻の色の由来や生息場所との関連について科学的な調査や研究がなされたことはなかった。本研究では,シジミの貝殻の色を決める因子を見つけ出し,色が決定されるメカニズムを明らかにすることを目的とする。 貝殻は,殻皮と呼ばれる薄い有機層と,炭酸カルシウムと複合タンパク質で構成される石灰質層からなる。シジミの貝殻の色は主に殻皮の色によって決まる。2021年度は,シジミの殻皮の黒色原因物質を同定し,その識別法の確立を目的とした。黒色物質はユーメラニンであると予測し,実施計画で示した高速液体クロマトグラフ質量分析計(HPLC-MS),硫黄と鉄のK吸収端のX線吸収微細構造(XAFS)スペクトル測定に加え,新たに共鳴ラマン分光法と鉄のL吸収端のXAFSスペクトル測定を導入し,殻皮の分析を進めた。 強く黒色を呈する殻皮の共鳴ラマンスペクトルで、共通のラマンシフトに強いピークが出現した。鉄のXAFSスペクトルのX線吸収端近傍構造 (XANES)解析と広域X線吸収微細構造(EXAFS)解析を行った結果,黒色物質はユーメラニンではなく,3価の鉄イオンにカテコールが結合した,鉄-カテコール錯体であることを突き止めた。また,鉄-カテコール錯体が形成される反応と予想される環境中での鉄の化学状態から,殻皮が黒色,褐色,黄色を発現する場合想定されるメカニズムについても提案した。 ここまでの成果は論文にまとめ投稿中である。また,成果の一部は,第56回日本水環境学会年会(2022年3月)で報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初,殻皮中の黒色物質をユーメラニンであると予測し,実施計画を立て実験を進めた。しかし,HPLC-MSと硫黄および鉄のK吸収端XAFSスペクトルを解析した結果,ユーメラニンの可能性が低いという結論に至った。鉄と黒色発現の相関に注目し,実験計画を変更した。鉄のK吸収端XAFSスペクトル測定に加え,新たに共鳴ラマン分光法と鉄のL吸収端XASFスペクトル測定を導入し,黒色物質の同定を行うことができた。共に非破壊で黒色物質を識別法できる手法であることから,当初の目的をほぼ達成できたので,おおむね順調に進展しているとした。
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今後の研究の推進方策 |
黒色物質がユーメラニンではないことが分かったので,2022年度は,貝殻の色が黄色から黒色を発現するメカニズムの解明へと目的を変更する。2021年に提案した「殻皮が黒色,褐色,黄色を発現する場合想定されるメカニズム」に基づき、実施計画を以下の通りに変更する。 初めに,色の異なるシジミについて,共鳴ラマン分光法とXAFSを行い,鉄カテコール錯体と色の関連を調べる。琵琶湖産のシジミに加え,黒色の発色が強い宍道湖産のシジミも対象とする。次に,殻皮の基材と予測されるカテコール様物質を分離・同定し,黄色から黒色までの色が出現する過程を再現する。
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次年度使用額が生じた理由 |
実施計画作成時の予測とは全く異なる結果がでたので,実施計画を2021年度内に大幅に変更した。それに伴い次年度使用額が生じた。次年度使用額は,実施計画の変更に伴い必要となった,殻皮の基材の分離・同定に使用する。
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