本年度(2023年度)は,本研究の最終年度として,①全国の小麦主産地4道県の農協系統に対する現地での聞き取り調査,及び小麦生産圃場の視察を行うとともに,②令和3年度~令和5年度までの研究成果を併せた本研究の総取りまとめを行った。 ①福岡県ではこの間,軟質小麦「シロガネコムギ」「チクゴイズミ」から硬質小麦「ミナミノカオリ」「ちくしW2号」への生産が進んでいるものの,最近は「ミナミノカオリ」の需要が頭打ちになっていて,実需者からは汎用性の高い軟質小麦を求める声が出ており,これを受けて県内のN農協では「チクゴイズミ」にも改めて力点を置くとともに,製粉会社から購入要望の強い軟質小麦「シロガネコムギ」の試験栽培も開始している。岐阜県ではこの間「農林61号」から「さとのそら」への品種転換が行われたが,「イワイノダイチ」を含めて県産小麦はほぼ軟質小麦であり,外国産小麦とのブレンド用としての使途に重点を置いた販売・生産体制を継続させている。北海道石狩地区のK農協では軟質小麦「きたほなみ」から硬質小麦「春よ恋」「ゆめちから」への品種転換を進めてきたものの,「ゆめちから」の需要が停滞してきたため,軟質小麦に再び目を向けはじめている。熊本県のT農協も硬質小麦「ミナミノカオリ」の作付けを増加させているが,こちらは「高タンパク仕分け集荷」を行って硬質小麦の需要確保を狙う戦略を採っている。 ②以上,3年間に亘る現地調査・研究の成果を纏めると以下のようになる。すなわち,新品種導入・品種転換をめぐる小麦主産地の動向は一様ではなく,それぞれの状況に対応した特徴が見られるが,そこには,(ア)小麦の生産者手取額や作りやすさ,(イ)実需者からの要望への対応や実需者と一体となった商品開発などの需要の確保・拡大,という2点が主産地における方針決定の重要な要素になっているという共通性がある,ということである。
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