研究課題/領域番号 |
21K05796
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
北野 慎一 京都大学, 農学研究科, 准教授 (20434839)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 環境保全型農業 / 普及プロセス / 政策評価 / 空間計量経済学 / 因果推論 / 有機農業 |
研究実績の概要 |
農業生産の持続可能性が問われる中で、環境保全に資する農業実践やそれをサポートする政策がグローバルな視点から重要性を増している。わが国では日本型直接支払制度の一つとして環境保全型農業直接支払交付金が、化学肥料・化学農薬の使用を低減し、地球温暖化防止や生物多様性保全に資する生産活動を支援し、さらには有機農業を推進する仕組みとして導入されている。こうした政策の評価(Impact Evaluation)を様々なレベルで分析することが本研究の第一の目的である。2022年度はまずその環境保全対策が大幅に遅れている酪農におけるボトムアップの政策の可能性についても検討した。続けて、2023年は集落レベルで直接支払交付金が有機農業の普及にどの程度寄与しているかを分析した。また、地域におけるソーシャルキャピタルが有機農業の普及にどのような役割を果たすのかについても検討を行った。以下では2023年度の研究成果を中心に列挙する。 ①直接支払交付金が有機農業の普及に有効であるかを旧市町村レベルで分析を行った。分析の結果、有機農業の状況と政策参加には空間的異質性がみられた。空間計量モデルを用いてそれらの異質性をコントロールしたうえで、政策インパクトが識別された。なお、その経済的な有効性には疑問が残ため、交付金にかかる行政コストの低減や(政策参加のための)集団要件の緩和などの必要性が示唆された。 ②有機農業の普及に貢献するファクターとしてソーシャル・キャピタルに注目し、その効果測定を行った。分析の結果、地域におけるソーシャルキャピタルの蓄積は、有機農業の普及に有意な影響を与えることが示された。ただし、分析結果は山間地域での効果は平野地域での効果よりもはるかに大きいことを示しており、地域の地形的・社会経済的条件に応じた設計が必要となることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初2021年度におけるコロナ対策のため遅延により、全体的に研究の進捗が遅れている。それ故、2024年度の1年間の研究延長を行った。2021年度は環境保全型農業に関する公的機関へのヒアリングを行い、2022年度は酪農における環境配慮(放牧酪農)の取り組みの普及可能性について実証分析を行った。2023年度は上述した通り、集落レベルで直接支払交付金が有機農業の普及にどの程度寄与しているか、及び地域におけるソーシャルキャピタルが有機農業の普及にどのような役割を果たすのかについての研究を実施した。 これまでのところ、特に研究計画にある海外ベトナム調査は思うように実施できていないため、2024年度はこの調査を中心に実施する予定である。一方、国内調査は充実した結果が得られており、特に公表統計を用いた集落及び旧市町村レベルの環境保全型農業及び有機農業の普及状況の分析及び関連政策の効果分析は、論文執筆作業も終了している。
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今後の研究の推進方策 |
現在までの進捗状況で述べた通り、国内調査の公表統計を用いた集落及び旧市町村レベルの環境保全型農業及び有機農業に関する普及プロセスの分析及び政策評価分析ほぼ終了している。それ故、延長した2024年度は、海外調査対象地であるベトナムの調査とともに、時間と予算が許されれば国内の個別経営体レベルの環境保全型農業及び有機農業の普及プロセスの研究を実施する予定である。夏季休暇中にベトナムにおける現地調査を実施し、研究データを収集し、今年度後期はそのデータを用いて分析及び論文執筆を行う予定である。個別経営体レベルの研究については、国内の法人経営体に対する有機農業の実施状況に関するアンケート調査を実施し、分析及び論文執筆を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた主な理由は、研究計画年度当初にコロナ対策のために海外調査が実施(旅費・人件費・謝金の執行)できなかったためである。予定している海外調査を2024年度中に実施し、「次年度使用額」のすべてを執行予定である。
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