研究課題/領域番号 |
21K05810
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
野中 章久 三重大学, 生物資源学研究科, 准教授 (60355253)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 原発被災地 / 復興 / 大規模水稲法人 / 急速な農地集積 |
研究実績の概要 |
福島県沿岸の原子力災害被災地である南相馬市にて,営農再開を牽引する(株)紅梅夢ファームの訪問調査を実施し,今年度の事業実施頂上と次年度の状況を聞き取った.聞き取りによると,2017年度に設立,2021年度にはすでに100haに近づく規模となっているが,2022年度には受託面積が倍増する趨勢であるとのことであった.これは,除染,圃場整備が終了し,避難農家の帰還,営農再開の呼びかけをしていた集落において,自作できずに委託されるケースが続出する状況であるとのことである.一方で,農業経営は水稲を軸に,タマネギなどの野菜,ナタネを展開しているが,全て販売できている.水稲はアイリスオーヤマが大口の買い手であり,炊飯済みパックの売り上げが好調とのことで,生産拡大にも対応できる見込みであるとのことである.既往の研究では,農家帰還率は40%程度としたが,この見込みが妥当する中で,自給的農家がほとんど見られない大型水稲法人による地域農業という,かつて無い地域農業が登場する可能性が示唆される研究結果となった.今後は,農地の出し手の調査を進めるとともに,除染作業等の地域復興の作業に当たる者が他地域からの移動労働者か,地域内出身者か,他地域からの移入者の場合,地域に定着し新たな人口構成部分となるかなどの調査を実施する予定.ただし,今年度もコロナの影響により,調査実施は甚だ困難であった.来年度の調査実施が可能かどうかは極めて予測が難しい.可能な方法をできるかぎり検討する.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
交付決定より年度末まで,緊急事態宣言をはじめ,調査へ赴くことが極めて難しかった.可能となった時期を逃さず調査を実施したが,年度通しても,この実施した調査以外の日程では,感染予防上不可能であった.言い換えれば,制限のある中で,効率的な聞き取りを実施できたといえ,与えられた条件の中では最大の効果であったといえる.
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今後の研究の推進方策 |
当初,除染作業にあたる作業員の労災内容が,内蔵病に起因するものをはじめ,雇用前からの既往症による入院が極めて多いという情報を現地をフィールドとする医学研究者から入手していた.この特異的な労災内容の規定要因は,労働市場の特異性から来ていることが推察されるため,当方の雇用調査と連動させることが企画され,共同研究を目指すものとなっていた.ところが,コロナの影響で,当方の現地調査が困難となると同時に,医学関係者も共同研究の条件が崩れた状態となった. このような状況にあるため,まずは可能な限り現地調査を実施する. 除染作業に当たる企業等を対象とした聞き取りは,オンラインを含め,可能な方法を選択する.そのうえで,共同研究を打診していた医学系研究者との連携を模索し,除染作業員の雇用調査,ならびに来歴に関する調査をすすめる.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初,旅費として現地農村調査および同様の地域をフィールドとする医学研究者との共同研究打ち合わせを数回予定していた.ところが,緊急事態宣言が発出されたこと,またその前後において移動制限が要請されたこと,および所属大学の出張規程からも県外への出張可能であった時期は極めて限られていた. 本年度は課題初年度ということもあり,現地でのコネクション作りの位置づけの現地調査を予定していたため,リモートでの聞き取りは不可能であった.また,共同研究を予定していた医学系研究者も,コロナの影響により共同研究の条件が崩れることとなったため,課題進捗に大きな障害となった.結果として,京急計画において大きな遅延が生じてしまった. 本年度中に可能な範囲で現地調査を実施し,南相馬市の復興を牽引する紅梅夢ファームの聞き取り調査が実施できた.同法人の事業の推移から,現在農地の貸し出しが大量に発生している事が把握でき,復興のプロセスに段階的変化が生じつつある事が示唆された.この情報を糸口に,その構造変化の概要を本年中に把握することが予定されていたが,コロナによる行動制限により,これが不可能となった. 少なくとも,糸口になる情報は得られたため,次年度に課題繰り越し都市,併せて予算的にも次年度に繰り越すものとなった.
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