計画の時代とも称される1930年代から1960年代の時期を対象に、ドイツの農業・農村開発事業の歴史的経緯と実態を、社会史と環境史の複眼的視点からから実証的に解明することが本研究の目的であった。 2024年度は9月と3月の2回にわたり、研究代表者の足立が現地の州立文書館で資料調査を行った。第1に戦後西ドイツの北部開発事業の前史としてナチ期のヒトラー干拓地の開発・入植事業に関して、同時期のエムスラント泥炭地開発事業と比べるとその開発規模が小さく、早期に入植事業を完了させることができていたこと、これに対して戦後の北部開発事業は対象面積が圧倒的に広範囲にわたっており、その点で戦前と戦後の事業の前史との連続性は限定的であることが判明した。第2に戦後の東ドイツの模範村建設事業については、対象としたメストリン村について、MTSの存在感が大きいこと、また村落空間の拡充整備のみならず、農業生産の面でも「トウモロコシ祭り」が開催されるなど、飼料トウモロコシ栽培の普及が重要課題とされていたことが判明した。 また本研究では、本研究課題をより広い比較農業史的見地から検討をすすめるため若手研究者に対する研究協力を積極的に求めた。具体的には畑岡孝哉さん(京都大学農学研究科修士課程)には、ドイツ農学史研究の観点からテーア博物館にてADテーア関連文献・資料の調査を依頼した。御手洗悠紀さん(京都大学研究員)には英独を中心とする有機農業運動史の研究文献の調査を、徳山倫子さん(同)には、人的資源開発の観点から農村女子青年の農村教育についての検討依頼し、随時、適切な助言を得た。 最後に研究期間全体を通しては、ドイツ農業・農村開発史は帝政期の内地植民地政策にまで遡って検討すべき課題であること、そのさいには中東欧の民族問題、農業問題、人々の移動の問題(戦争による大量難民を含む)と深く関連するものであるとの見方を得た。
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