研究課題/領域番号 |
21K05832
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研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
角道 弘文 香川大学, 創造工学部, 教授 (30253256)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ため池 / 生態系保全機能 / 絶滅危惧種 / ガガブタ / 利用管理 |
研究実績の概要 |
ため池を主な生育地とするガガブタ(香川県:絶滅危惧Ⅱ類)において,土壌表面の変温性や光条件が種子発芽の促進要因であることが指摘されており,放流操作に伴う水位低下の程度やその期間が,法面表層の地温や乾湿に影響を及ぼすと考えられた. 香川県内のため池12か所(生育が確認されたため池3か所)を対象に,月別水位変動,法面勾配および周囲長をもとに,ため池法面の露呈面積(コンクリートで被覆されていない部分)を推定した.ガガブタの生育がみられるため池はいずれも,6月を中心に水位低下による法面露呈がみられる池であった.これより,ガガブタの生育には,発芽期にコンクリートに覆われていない法面が露呈する必要があるという仮説は,ある程度は説明された.他方,4か所のため池は,法面が露呈する時期があるものの生育が確認されなかった.これらは,富栄養化が進行しているため池,有機性汚濁が進んでいるため池であった.また,4か所のうち3か所の管理者からは,近年,ミシシッピアカミミガメが増加していることが指摘され,同種によるガガブタの食害の可能性も考えられた.また,水質調査および聴き取り調査からはガガブタ消失の原因を考察できなかったため池については,露呈法面が出現する背後地に日射を遮る樹木が茂っていることが現地調査で確認され,このことが発芽を妨げる要因と考えられた. また,浅水域で形成されているため池を対象に,浅水域がトンボ目幼虫にとっての生息場となる可能性について検討し,さらに,トンボ目幼虫の出現状況と水生植物の被度との関連について検討した.62区画で調査を行った夏季では14種38個体が確認され,浅水域の有効性が明らかとなった.また,階級Ⅴを除き,階級Ⅰ~Ⅳにおいては被度が高くなるほど種数・個体数がともに増加し,多様度も高くなる傾向が見られた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,小規模ため池の生態系保全機能を持続させるために必要な維持管理について検討することを目的の一つとして掲げている.「研究実績の概要」で述べたとおり,絶滅危惧種である浮葉植物ガガブタの再生産(種子発芽)のための一つの条件が,ため池の放流操作という人為がもたらす水位低下であることが推測された.ため池生態系の環境基盤の一つとも言うべき水生植物の一種であるガガブタの生育を存続させるための維持管理方法の端緒が掴めたことは2年目の研究成果として意義深いと考える.こうした生物種ごとの生息・生育条件の解明とため池維持管理の関連について一つ一つ解明していくことで,小規模ため池の維持管理と生態系保全機能の関連にかかる分析評価に繋がるものと考える. なお,申請時の当初計画では,2年目においても,10か所程度の小規模ため池を対象に,淡水魚類,トンボ類などの採捕調査および環境調査,ため池の維持管理実態の把握を行うこととしていた.他方,実際の現地調査では,上述のガガブタに加え,浅水域で形成されているため池に生息するトンボ目幼虫の出現状況の把握を行った.主として,トンボ目幼虫の種数,個体数,多様度が浅水域に繁茂している植生(アシカキ)の被度にどう影響するかを検討するものであった.池内の植生をどの程度刈り除くかという維持管理の方法に係わる内容である.以上のとおり,事前に想定していた2年目における目的は概ね達成されたが,調査項目,調査量が当初の計画どおりではなかったことから,上記の区分を選択した.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,これまでの現地調査を継続して行いつつも,生態系保全機能の保持に必要なため池の維持管理水準、リソースの制約のもとで優先的に保全すべき小規模ため池を抽出するための計画手法について,段階的に検討を進めていく. ただし,当初計画では,香川県M町に位置する小規模ため池12か所程度を調査対象地としていたが,来年度においても対象ため池の選定方法を変更することとしたい.理由としては,「香川県レッドデータブック2021」編纂の根拠資料である一次データを香川県より取得できており,この一次データによって,絶滅危惧種が生息しているため池の位置情報がある程度把握できるからである.ため池の生態系保全機能を評価する最適な指標の一つである絶滅危惧種の情報,そして,当該種が実際に生息しているため池の位置情報,これらの組合せにもとづいて調査対象ため池を選定することとする.また,比較対照として適当と考えられる近傍のため池をも調査対象として加え,両者を比較検討しながら所定の目的の達成を目指したい.
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次年度使用額が生じた理由 |
当該助成金が生じた状況として、国内旅費および人件費が当初計画よりも少額であることが主な理由である。また、使用計画として、水質分析委託等を想定している。
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