研究課題/領域番号 |
21K05834
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研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
弓削 こずえ 佐賀大学, 農学部, 准教授 (70341287)
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研究分担者 |
阿南 光政 佐賀大学, 農学部, 准教授 (80782359)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 土壌水分 / 蒸発散 / CFD / 畑地灌漑 / 農業用水 |
研究実績の概要 |
九州内の複数の作物圃場を対象圃場として選定し,熟練耕作者が水分供給を行うタイミングを明らかにすることを目的として,用水量,気象要素および土壌水分特性の調査を行った.対象圃場内の給水栓に流量計を設置し,灌水量を観測した.ウェザーステーションおよび放射収支計を設置して,圃場内の複雑な放射環境を明らかにした.圃場内の3高度に温湿度計を設置し,温湿度成層の構造を評価した.また,圃場内の微弱な風速を超音波風速計を用いて評価した.対象圃場の土壌サンプルを採取し,室内実験で透水係数や水分特性曲線などの土壌水分特性値を求めた.圃場の5深度にTDR土壌水分計を設置し,土壌水分の時間変動と空間分布を把握した.これに加え,一部の圃場ではテンシオメータも併用して調査を行った.土壌の水分移動特性および水分変動の結果から,消費水量を定量化し,対象圃場の水ストレスの状態を評価した.この結果と対象圃場における灌水イベントの頻度や時期を分析することで,耕作者の水管理実態を明らかにした.耕作者の水管理は,比較的感知しやすい表層付近の土壌水分や気象の状況のみならず,深い層の土壌水分状態も踏まえて実施されていることが窺われた.また,作物の生育段階ごとに水分補給のタイミングや量が異なっており,作物の生育状態に応じてストレス制御方法が変化することが明らかになった. 現地調査で得られた気象データや土壌水分特性値をインプットデータとして,畝の構造を踏まえて土壌中の水分および熱移動を評価するためのシミュレーションモデルを構築した.また,圃場の気層の流動を予測するための風況予測モデルの構築に着手した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は,複数の作物圃場を研究対象として選定し,予定していた観測機器の設置を行うことができた.一部,データの欠損が生じたが,直ちに復旧することができたため,データの蓄積は順調に進んでいるといえる.対象圃場では大きな気象災害は発生しておらず,作物の生育も良好であり,生育期を通じたデータを収集することができた.シミュレーションモデルについては,土壌中の物質移動に関するモデルは概ね構築することができ,今後は精度を高めるための検証に取り組む予定である.風況予測モデルについては構築に着手しており,来年度に完成することを目指している.
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降も対象圃場において,用水量,気象要素および土壌水分状態の観測を継続し,データの蓄積を図る.圃場内の複雑な放射環境の時間変動と空間分布を精緻に評価するためのデータを収集し,モデリングすることを目指す.この結果を用いて,圃場内の温湿度成層の形成過程やこれに伴って発生する物質移動現象を把握する.この結果を境界条件として今年度に構築した土壌中の水分および熱輸送のシミュレーションモデルを高度化する.現地で収集したデータを用いてシミュレーションモデルの妥当性を確認し,精度向上に努める.また,土壌水分変動の一要因となる風況を予測するためのモデルを完成させることを目指す.作物圃場の風況は複雑に変動するため,風況予測モデルの検証には,現地観測に加えて風洞実験も併用して行う予定である.耕作者の水分供給のタイミングをより精緻に把握するために,灌水イベント発生時の気象条件や土壌水分環境を分析し,水ストレスの制御実態を解明することを目指す.
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