研究課題/領域番号 |
21K05835
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
櫻井 伸治 大阪府立大学, 生命環境科学研究科, 講師 (30531032)
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研究分担者 |
中桐 貴生 大阪府立大学, 生命環境科学研究科, 准教授 (80301430)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 重金属 / 土壌 / 不動化 / 酸化還元状態 / 可給性 |
研究実績の概要 |
重金属汚染土壌での安全な作物生産に向けて,植物の重金属吸収を抑制(以下,不動化)することが求められている.その方策として,有機質資材(以下,資材)を土壌に投与し重金属を不動化する試みがなされつつある.しかし,不動化の要因として物理化学的,生物学的作用が挙げられるものの,それらの寄与度は不明である.本研究では土性の異なる2種の土壌に資材を混合させ重金属(Cu,Cd,Pb)を添加した土壌バッチ試験を実施することで,pH,酸化還元状態および有機物への吸着の3つの作用にターゲットを当てて各要因の移行抑制効果の大小関係を明らかする. 今年度は土壌の酸化還元状態が資材(特に牛ふん堆肥,以下CMに注目して)による重金属不動化効果への影響について検討した.具体的には土壌を湛水させ還元状態での重金属の可給性を観察するとともに,非湛水状態(圃場容水量)のそれと比較した. 資材を無投与の湛水条件では,総じてCuおよびCdでは土性の違いによらず,1ヵ月程度の湛水によって不動化効果が得られることが示された.一方,Pbでは砂丘砂において湛水による不動化効果が見られたものの,水田土においては湛水による可溶化が認められた. 湛水条件下でも,非湛水条件下と同様,CMの投与は重金属不動化に有効であることが認められた.湛水・非湛水条件間で不動化効果を比較すると,Cuは両土壌ともに湛水条件下の方で可給態量が高くなっている.Cdは試験期間通じて,土性の違いによらずCM添加条件下で湛水が不動化に効果的であることが示唆された.なお,Pbには湛水・非湛水条件間および土性の違いによる一定の大小関係は見られなかった. 以上より,重金属汚染土壌でも水田営農の可能性が見出された.ただし,重金属の可溶化,汚染状況や土壌の性質を勘案して湛水期間などの水管理や施用管理を適切に行う必要がある.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は酸化還元状態に特化して当該要因の重金属不動化効果への影響を検討した.還元状態での重金属の可給性変動を確認することができたため,おおむね順調に進んでいるものと判断した.本来であれば,pHによる不動化効果の影響も同時並行で検討する予定であったが,pH調整に関わるいくつかの問題点が認められたため,次年度に持ち越しとなった.ただし,実験デザインを変更するなどして対応可能であることが判ったため,次年度には順調に進めていけるものと見込んでおり,現在,予備試験を鋭意遂行中である.
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今後の研究の推進方策 |
まず,直近の課題であるpHによる重金属の不動化効果への影響を優先的に明らかにする.それと同時に他の資材(鶏ふん堆肥など)でも,今年度と同様の実験を行い,資材間で還元状態での重金属可給性に違いがあるか明らかにしていく. pH,酸化還元状態の土壌環境の変動による重金属抑制効果の変化,加えて,資材への重金属の吸着の様態を観察することで,土壌pH,酸化還元状態および吸着が重金属の移行抑制効果に及ぼす影響度(寄与度)を検討し,各要因の分離,さらに主要因同定を試みる. また,進捗状況によっては,資材中の有機物の組成(特に腐植物質の定性的,定量的同定)を行い,重金属の移行を抑制する官能基を同定することを考えている.最終的には,資材による重金属の不動化発現の程度も定量的に評価することを予定している.
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